「原爆の恐ろしさ描かず」「主人公の苦悩で表現」被爆地広島で映画「オッペンハイマー」巡り議論 公開を前に試写会

アカデミー賞7部門を受賞した映画「オッペンハイマー」の試写会が12日、広島市内で開かれました。原爆を開発した科学者を描いた話題作を巡って、議論が交わされました。

試写会が開かれたのは広島市中区の「八丁座」で、県内の高校生や大学生などおよそ110人が参加しました。

映画「オッペンハイマー」は、第2次世界大戦中に原爆の開発を指揮したアメリカの科学者ロバート・オッペンハイマーの生涯が題材です。世界で初めて核兵器の開発に成功した一方で、広島や長崎の惨状を聞き、苦悩する様子が描かれています。

この映画を手がけたのは、イギリス系アメリカ人のクリストファー・ノーラン監督。アカデミー賞の授賞式では、作品賞や監督賞など7部門を受賞しました。

試写会の後、トークイベントが開かれ、元広島市長の平岡敬さんなど3人がこの話題作を巡って議論を交わしました。

元広島市長 平岡敬さん
「いろんな角度から考えられるんですけど、私は広島の立場から、ちょっとね、原爆の恐ろしさ、核兵器の恐ろしさというのがまだ十分に描かれていないんじゃないかなと思ったんです」

アメリカ出身のアーサー・ビナードさんは、「映画を通じ原爆を開発した側の立場に触れることで、被爆の問題について新しい視点を得られる」と話しました。

詩人・絵本作家 アーサー・ビナードさん
「オッペンハイマーを徹底的に描いている。インサイダーの立ち位置で描くことで、結局、広島の人たちの体験、長崎の人たちの体験を外している。でも、映画で外しているんじゃなくて、そもそもマンハッタンプロジェクトに関わっている、選ばれしインサイダーたち、軍人も科学者も、みんな広島をなんとも思ってないです。その核開発の残酷な流れに立ち会うことができるんですね」

呉市出身の森達也さんはオッペンハイマーの苦悩を通じ、原爆の悲惨さは間接的に表現されていると指摘しました。

映画監督・作家 森達也さん
「例えば広島・長崎の現状を科学者たちを集めて伝えるときにオッペンハイマーがずっと下を向いてるんですよ。あのシーンだけでも、いかに悲惨なのか、いかにむごいのか(を描けている)。じゃあ、そこに実際の広島・長崎の映像を入れればいいのか。そんな問題じゃないと思うし。僕は本当に成功した映画だと思っています」

参加した高校生からは「日本から海外に向けても新しい視点で戦争について伝えられないか」といった質問が出ていました。

参加した高校生
「平和教育では原爆が投下されて広島・長崎にどんな被害があったっていうことしか知らなかったけど、今回の映画ではどのような過程で広島・長崎に原爆が落とされるのかっていう、今までにない視点から見た」

映画「オッペンハイマー」は3月29日から全国で上映されます。

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