【後編】70歳 料理研究家 大庭英子さんの暮らし。「ようやく“丁寧に”が楽しめる年齢になりました」

独立して初めて買ったテーブルは、今でもLDKの主役。狭い部屋でもなるべくたくさんの人が座れるものをと考え、丸い形に。白い天板の上に付属の赤い回転板をとりつけることもあるそう。

日々を明るく照らしてくれる小さな楽しみや、心を潤すための暮らしの工夫は、幸せを感じさせてくれます。そんな暮らしを営み、わたしらしく、今を生きる女性を紹介する『60代からの小さくて明るい暮らし』(主婦の友社)から、料理研究家の大庭英子さんの後編をお届けします。

★前編はこちら★

PROFILE
料理研究家
大庭英子さん(70歳)
東京都在住
ひとり暮らし
福岡県出身。料理研究家歴40年以上。身近な材料と普段使いの調味料でつくる、美味しさのポイントをおさえた、簡単で親しみやすい料理に定評がある。近著は『あっこれ食べよう!70歳ひとり暮らしの気楽なごはん』(主婦の友社)。

自分の感覚に素直に従い、ものごとの明るいほうに目を向けて

午後になると西向きの窓から木漏れ日が揺れ動く、広々としたフローリング。窓の外の緑に目を奪われる、すっきりとしたインテリア。鳥の声が聞こえてくる、静かな空間——。

いらないものを省くのは、そんな自分にとっての“心地よさを守る”ため。不要なものごとを明確にすることで、今、目の前にある幸せが浮き立ち、日々を快適に過ごせるようになるのでしょう。大事なのは、自分の内にあるその“素直な感覚”ではないでしょうか。

「何事も無理はよくないと思うんです。実はわたしも、体にいいからと苦手な納豆をがんばって食べていた時期があるのですが、やっぱり苦手は苦手。そこで、発酵食品はヨーグルトやみそ、植物性のたんぱく質は豆や油揚げなど、納豆に入っている栄養分を好きな食品で補うことにしました。ひとりごはんはだれに気兼ねすることなく、自分の体の調子や気分に合わせて好きなものを食べられるというのが魅力でもありますから」

ひとりの寂しさに目を向けるより、気楽さに目を向けて、毎日を過ごしたほうがずっと楽しいもの。また、歳を重ねるとどうしても体力の衰えや体調の変化など、加齢を実感してしまうことが出てきますが、その半面、時間に余裕がもてるようになるのは“この歳ならではの特権”。

「今までいろいろなレシピを提案してきましたが、“時短料理”はもう卒業でいいかなって。何かとやることに追われた目まぐるしい日々の中では、時間や手間をかけない料理がありがたかったりもしますが、今はゆっくり時間をかけられる。それってこの歳ならではの醍醐味ですよね。だからこそこれからは手間をかけてつくる料理の楽しさを発信していきたいなと思うんです。豆をことこと煮たり、季節のジャムをつくったり。ようやく“丁寧に”が、楽しめる年齢になったのですから」

日々を潤す、暮らしの工夫と心がけ

体にいい豆を常備。いろいろな調理法でいただきます

昔はそんなに好きではなかった食材ですが、海外の料理にならって塩で味をつけてみたら、そのおいしさにびっくり。以来、いろいろな調理法でよく食べるようになりました。豆はシニア層に不足しがちなたんぱく質の宝庫。フランスの伝統料理の「カスレ」は、量も食べられて、冬にぴったりの料理。ぜひつくってみてください。

カスレ(塩豚と豆の煮込み)のレシピ

材料 4人分

豚肩ロース肉塊…300g
塩…小さじ2
白いんげん豆…300g
水…6〜7カップ
玉ねぎ…1/2個
にんにく…1かけ
オリーブ油…大さじ2
白ワイン…1/3カップ
にんじん…1本
セロリ…1本
豆のゆで汁…1カップ
完熟トマト…2個
ローリエ…1枚
塩、こしょう…各少々

つくり方

①豚肉はジッパーつきの保存袋に入れて塩を加えて袋の外から揉むようにして全体に塩をまぶし、余分な空気を抜き、バットなどにのせて冷蔵庫で2〜3日置き、塩豚をつくる。
②豆は洗い、鍋に入れて分量の水を加えて一晩浸しておく。
③②の鍋を中火にかけて煮立ってきたら、火を弱めて3分ほど煮てざるにとり、ゆで汁をきる。鍋に豆を戻して豆にかぶる程度の水(分量外)を加えて中火にかけて煮立ってきたら、火を弱めて蓋をして20分ほど煮る。火を止めたらそのままあら熱をとる。
④豚肉は水でさっと洗い、水気を拭き、1cm厚さに切り、3cm四方(食べやすい大きさ)に切る。
⑤玉ねぎ、にんにくはみじん切りにする。
⑥トマトはへたをくりぬいて、横半分に切り、種を取り、1cm角に切る。にんじんは皮をむいて1cm厚さの輪切り。セロリは筋を取り、1cm幅の斜め切りにする。
⑦豆はざるにあげてゆで汁と分けておく。
⑧鍋にオリーブ油を熱して玉ねぎ、にんにくを入れて炒める。肉の色が変わったら、白ワインをふり、豆、にんじん、セロリを加えて炒め、豆のゆで汁、トマト、ローリエを加えて混ぜ、煮立ってきたら、蓋をして弱火で30分ほど煮て、塩、こしょうで調味する。

見た目にも美しい昔ながらの道具を暮らしの相棒に

プラスチック製品はほぼ持っておらず、料理から収納まで、ざるや桶、かごなどの自然素材の道具を使っています。普段は食器乾燥機ですが、ささっと洗いたいときは水切りのいい竹ざるが便利。壁にかけておくと自然に乾きます。通気性のある桶は米びつとして。

特に大切に使っているのは大分の青竹細工職人・桐山浩実さん作のざるやかご。実用の芸術品として言っていい美しい仕事ぶり。私が死んでも後世に残る品。そういうものと生活をともにできるのは、うれしいことです。

やりたいことは予約して手帳に記す

50代のときに体調不良で1カ月ほど入院したことがあり、それ以来、仕事以外の時間も大切にするようになりました。“いつか”ではなく“すぐ”。予約や予定を手帳とスマホに書き込んでしまえば、実行力が身につきます。手帳は長年愛用している「トラベラーズノート」。

体のメンテナンスはタスクにして定期的に行う

メンテナンスは“ひどくなる前に”がモットー。週に1回のマッサージと2年前から月2回ヨガも始めて、現状をキープできるように努めています。続けるコツは、強制的に予定を組むこと!

写真/清永洋

※この記事は『60代からの小さくて明るい暮らし』主婦の友社編(主婦の友社)の内容をWeb掲載のため再編集しています。


© 株式会社主婦の友社