【シニア向け住宅】老後貧乏にならない住まいの選び方とは? FP畠中雅子さんがアドバイス[前編]

「シニア期に入ったなら、老後資金に余力を残して住み替えを。まずは入居一時金、月々の支払額の試算と、施設の見学をしましょう」と話すのはファイナンシャルプランナーの畠中雅子さん。老後貧乏にならない住まいの選び方などを教えていただきました。

PROFILE
畠中雅子さん

はたなか・まさこ●ファイナンシャルプランナー。
雑誌、新聞、ウェブ上に多数の連載をもち、「高齢期のお金を考える会」「働けない子どものお金を考える会」を主宰。
『70歳からの人生を豊かにする お金の新常識』(高橋書店)など、老後の資金プランなどに関する著書多数。

「持ち家=終の住み処」と考えなくていい

読者の中には、「親が要介護になって施設を探したが、なかなか見つからず苦労した」「親の家の片づけが大変だった」という人が少なくない。この大変さをわが子にまで引き継がないようにと、早めの住み替えを考える人が増加中だ。

「それに、住み慣れた自宅で最期まで暮らすことが幸せとは限りません」と話すのは、高齢者の住まいに詳しい畠中雅子さんだ。

「室内に変化はなくても体は動きにくくなっていくので、室内の小さな段差で無防備に転倒して、救急搬送されるケースは少なくありません。車がないと不便な場所に住む人もいると思います。80代や90代を見据えて住み替えを検討してみては」

下の図を見てみよう。畠中さんは「シニアの住み替えは2回」と提案する。

「介護や支援の不要な自立時なら、2回の住み替えを前提とするのが住居探しのコツです。現段階で『認知症や医療行為が必要になっても住める施設』と考えると、気が重くなりますよね。まずは自立の人向けのサ高住や住宅型有料老人ホームを検討するといいでしょう」

施設入居に抵抗があるなら、駅や商業施設に近いマンションもおすすめ。

「生活が便利になるだけでなく、転居することで荷物が減り、要介護時の住み替えがラクになります」

シニア期の住み替えパターン

自宅からの住み替え先は、自立か要介護かで変わってくる。自立の場合にはさまざまな選択肢があるが、介護度が上がるほど選択肢は限られてくる。早めに検討することが大事。

なるべく長く自宅で暮らしたい人は、要介護になってから「住み替え1回」で検討する。その場合、要介護3以上になってからでは選択肢が限られるうえ、自分で決められない可能性が高い。自立の段階から施設見学を始めて、要介護1~2で入居する施設の目星をつけておこう。

住み替えを前提に現在の住まいを見直し

「まずは現段階の住まい方を見直ししてみて」と畠中さんは言う。マチュア世代は持ち家に住んでいる人が多いが、親の介護や田舎暮らしなどで、自宅以外にも住まいを持つ2拠点生活をしている人も増加中だ。

「持ち家の場合、自宅の売却額を査定しておきましょう。住み替え先の選択は、預貯金以外に家の売却額を加えた総資産で検討しますから、現状を知ることが大切です。2拠点暮らしの場合、別宅の家賃だけでなく、家電の買い替えや修繕費、交通費などでお金がかかります。拠点を一つに戻すことを検討し、そのタイミングで住み替えるのがおすすめです」

もちろん「ずっと賃貸」という人もいる。その場合、今より家賃を下げる住み替えを検討したほうがいい。

「公営住宅は、何度も応募すれば当選しやすくなることもあります。施設ならケアハウスを探しましょう」

そしてもう一つ重要なことは施設の見学だ。畠中さんはすでに300回以上施設を見学しているという。

「介護が必要になってから慌てて探すと、評判のよくない施設に入ることになりかねません。その前に自分に合う施設を選びましょう」

今の住まいにかかるお金、ここをチェック!

自宅(ローン完済の場合)

□ リフォームにお金をかけすぎない
□ いつ売却するかを見極める
□ 戸建ての場合、70代で利便性の高いマンションへの住み替えを検討

賃貸

□ 今の家賃で老後資金が十分か試算
□ 早めにシニア向け住宅を見学しておく
□ 物価高が続き、今後管理費が上がる可能性が高い。
老後資金に余裕があるか試算

2拠点生活

□ 光熱費など、2カ所の支払いを続けて老後資金が十分か、試算
□ 夫婦ともに自立が条件
□ 拠点間移動の交通費や特別支出が増えるため、家計管理が必須

老後貧乏にならない住まいの選び方

施設を選ぶときに大事なのは、自分の資産の範囲内で無理なく暮らせる施設に入ること。入居時に前払い金として支払う「入居一時金」と「月々支払うお金」を併せて検討しよう。

STEP1 入居一時金と、月々いくら 支払えるか、額を試算する

入居一時金

70代で入居の場合······全額支払いプランで
85歳超で入居の場合······ゼロプランで

総資産の3分の1が支払いの目安

入居一時金は施設で大きく違うが、自分が払える目安はいくらだろう。畠中さんは「総資産の3分の1以内が入居一時金の目安」と言う。

「預貯金や不動産なども含めた総資産を洗い出して計算を。総資産3000万円なら、入居一時金は1000万以内が目安です。70代なら全額支払いを検討してみては」

現在は入居一時金を無料にする「ゼロプラン」もあるが、その分、月々の支払額が高額になる。「ゼロプランの場合、長生きするほど出費がかさみます。85歳以下は避けるべき」(畠中さん)

月々の支払額

国民年金+遺族厚生年金+1万〜2万円が、月々支払うお金の限度額

今、夫婦の人もおひとりさまとして考えよう

入居一時金を支払っても、月々一定の費用(居住費の一部、食費、介護費、雑費など)を支払う必要がある。

「月々の支払いは、できるだけ年金で賄いたいもの。それが厳しい場合は貯蓄を取り崩しますが、プラス1万~2万円が限度。今潤沢な貯蓄があっても、何歳まで生きるかはわかりません。95歳まで生きるのを目安に計算してほしいのですが、今は100歳までと考えるべき時代かもしれません」

年金額は、夫がまだ元気でも「ひとりになったとき」の額でシミュレーションを。

STEP2 自立時の入居が自分に向くかを検討

自分の入居できる価格帯がわかったら、どんどん施設見学をしてほしい。

「見学するうちに、自分が施設の暮らしに向いているか否かがわかります」と畠中さんは言う。「集団生活が始まるのですから、協調性は必須です。『自分は施設に向かない』と感じていても、いくつか見ているうちに『ここなら』と思えるかもしれません。自宅暮らしのメリット&デメリットと比較して検討しましょう」

早起きが苦手など、生活リズムが合わない場合などは、朝ご飯は頼まない、などのやり方もある。まずは施設見学をして、スタッフに質問してみよう。

※この記事は「ゆうゆう」2024年4月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

取材・文/神 素子
※データは、2024年1月末現在のものです。


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