<全人代後の中国>西側と異なる「民主主義」と主張、目立つ外交攻勢、「二つの戦争」停戦へ仲介

習近平国家主席は「基礎研究などを強化し、要となる核心技術の攻防戦に打ち勝とう」と呼びかけ、全人代代表や政協委員は半導体分野などの研究開発強化やサプライチェーン整備の方針を表明した。写真は人民大会堂。

中国政府は2024年の科学技術費を前年比10%増の3708億元(約7兆7000億円)に増強した。中国の競争力を左右する半導体などで産官学が一体となった挙国体制の確立を狙う。

習近平国家主席は6日、全人代に併せて開催された全国政治協商会議で「基礎研究などを強化し、要となる核心技術の攻防戦に打ち勝とう」と呼び掛けた。これを受け、全人代代表や政協委員は半導体分野などに関して研究開発の強化やサプライチェーンを整備する方針を表明した。

一方、製造業が集積する広東省が7日に開いた分科会で、広州汽車の馮興亜総経理は「技術革新への投資を増やし、半導体の国産化など重要な技術の進歩を加速させる」と表明。自動車用半導体開発に力を注ぐ考えを示した。家電大手TCLの李東生董事長も「集積回路などの分野では依然として(先進国との)ギャップが大きい」と分析し、「中国企業は独自のイノベーション能力を高めなければならない」と訴えた。

李強首相は5日の全人代政府活動報告で「ハイテクの自立自強の推進を加速し、新型挙国体制の優勢を発揮しよう」と強調した。新型挙国体制は習指導部が主導する形で政府機関、企業、研究機関、金融機関が一体となってハイテク分野の開発を進める仕組み。素材、部品、完成品まで含めた供給網全体をスピード重視で整える。

日本のメディアは「習近平への権力一極集中が強化された大会だった」と指摘し、不透明さが増した」と批判しているが、中国シンクタンクトップは「中国には西側の基準とは違う中国式の民主主義がある」と反論。「全人代閉幕後の首相記者会見は無くなったが、会期中に開催された膨大な中央行政省庁の内外記者会見は活動報告審議に反映されている。中央行政省庁は政府活動報告における2024年計画を実際にいかにして実行するかを明確にして責任を負っており、ボトムアップにより政府の具体的な方針がより明確になったと見るべきだ」と指摘した。

中国外交部の毛寧報道官は8日の定例記者会見で、バイデン米大統領がこのほど発表した一般教書演説の中の中国に関する発言について、「中米関係はどちらが勝ちどちらが負ける、どちらが栄えどちらが衰退するというようなゼロサムゲームではない」と指摘。「われわれは中米関係を競争と定義することに一貫して反対し、中国を攻撃し中傷することに反対し、米国が競争の名の下に中国の正当な発展の権利を制限することに反対している」と強調した。

対米関係、相互尊重・平和共存・ウィンウィン原則を堅持

中国外交部の汪文斌報道官は13日の定例記者会見で、「12日に行われた最新の米大統領選予備選挙でバイデン米大統領とトランプ前大統領が、今年秋の米大統領選挙の候補者となることが確定したことについて「米大統領選挙には干渉しないが、中国が語るべきことは、中米関係をよく発展させることと、両国と両国国民の根本的利益に合致させることだ」と指摘。さらに「誰が次期米大統領に選ばれようとも、中国は米国側と共に歩み、相互尊重、平和共存、協力とウィンウィンの原則に基づき、中米関係が安定、健全、持続可能な方向に向かって発展するよう推進し、両国により良い幸せをもたらし、世界に恩恵をもたらすことを望む」と述べた。

中央広播電視総台(CMG)が主催し、米国中国総商会シカゴ分会が共催する「春の中国」グローバルメディア対話会が13日、シカゴ大学で開催された。CMGの慎海雄台長、謝鋒駐米中国大使がビデオであいさつした。ボーカス元駐中国米大使、カンザス州のコリアー元知事など米国の政界、ビジネス界、学界の100人近くのゲストが出席し、「中国への投資、発展の共有」というテーマをめぐって討議した。

慎氏は、「中国経済は昨年、5.2%の成長率で世界の成長の3分の1に貢献した。ビッグデータ、新エネルギー、人工知能(AI)などは『新たな質の生産力』の原動力となっている」と指摘。ボーカス元駐中国米大使は「グローバルメディア対話会は米中双方が建設的な対話を行う機会を作り出している」と評価した上で、「米中両国は互いに尊重し合い、小異を残して大同に就き、互いに協力する道と方法を探るべきだ。両国国民が互いに耳を傾け、効果的に意思疎通してこそ、協力と助け合いを一層深めることができる」と訴えた。

全人代の決定を受けた形で、中国の外交攻勢が目立っており、注目すべきだ。中国外交部の汪文斌報道官は13日の定例記者会見で、現在の中東情勢と中国の役割について、「中国は中東諸国の友人であり、中東情勢に強い関心を持っている。中国は中東諸国と共に世界発展イニシアチブ、世界安全保障イニシアチブ、世界文明イニシアチブを実践し、地域の長期的安定を共に促進することに力を尽くす。中国は中東諸国と各分野の実務協力も展開し、より質の高い互恵とウィンウィンを実現し、双方の人々により良い幸福をもたらすことを極めて重視している。中国の一部の全人代代表と政協委員は全人代と政協会議の期間中、関連する提案を提出した」と述べた。

汪報道官は、「ガザ地区の紛争は現在もエスカレートが続き、影響は拡散しつつあり、中東地域ひいては国際社会に深刻な衝撃を与えている。王毅外交部長は今年の全人代と政協会議の期間中、中東情勢、特にイスラエルとパレスチナの紛争に対する中国側の政策的立場を詳しく述べた。中国は今後も引き続きグローバル安全保障イニシアチブの精神を堅持し、中東諸国の戦略的自主強化や、団結と協力により地域の安全問題を解決することを支持し、共同で総合的、協力的、さらに持続可能な中東安全保障の新たな枠組みを構築し、中東の平和と安定を維持して地域の長期的安定を促進するためにより多くの貢献をしていく」と強調した。

米国は人権問題でダブルスタンダード―中国外交部

汪報道官はさらに「ガザ地区の数百万人のイスラム教徒は飢餓、追放、殺戮にさらされている。米国は人権問題でダブルスタンダードをもてあそぶのをやめ、ガザ地区の停戦を推進する国連安保理の努力を妨害することをやめるべきだ。米国がすべきことは、ガザ地区のイスラム教徒の命を救うために現実の行動を取ることだ」と強調した。

中国外交部の汪文斌報道官は14日の定例記者会見で、王毅中国共産党中央政治局委員・外交部長が17日から21日まで、ニュージーランド副首相兼外相およびオーストラリア外相のそれぞれの招待に応じて両国を歴訪すると発表。「中国側は引き続き、相互尊重や平等と互恵、小異を残して大同につく原則に基づき、対話と協力を強化し、健全な発展を推進する」と強調した。

国連安全保障理事会(安保理)は11日、安保理の作業方法をテーマに公開討論を開催。中国の戴兵代表は安保理が団結を強化し、コンセンサスを結集して、平和と安全保障上の課題により適切に対応するよう呼びかけた。

戴代表は、「安保理では長期にわたって、少数の常任理事国がいつも議題をリードし、草案作成や協議において個別の理事国が一国の思惑を集団よりも優先して多くの論争を引き起こしている。中国は議題の執筆は特権ではなく責任を意味すると一貫して主張しており、各国の意見を客観的かつ公正に聴取し、コンセンサスの結集に努めるべきであり、ダブルスタンダードを推し進めて政治的な操作を行ってはならない」と指摘した上で、「これまでの実践に基づいて、議題をリードする国に関する取り決めをさらに整理し、規範化して、より多くの国がより適切に議題リード国を務めるようガイドラインを提供すべきだ」と指摘した。

王毅外交部長は全国人民代表大会と中国人民政治協商会議関連の記者会見で中国内外の記者からの21の質問に答えた。大国関係、世界のホットスポット、グローバルガバナンスなど多岐にわたり、王氏は「中国は断固としてこの世界にとっての平和の力、安定の力、進歩の力であり続ける」と述べた。

「平和」「多極化」「包摂性」を重視―グローバルサウスとともに

さらに「平和は最も重要だ。現在ウクライナ危機が続き、イスラエルとパレスチナの情勢がエスカレートするなど、地政学上の衝突が激化している。中国は遺伝子に平和を刻みこんだ大国として、自国の安全と安定を願うだけでなく、世界平和のためにも積極的に奔走している」と強調。その上で「安定は発展の基礎だ。平等で秩序ある世界の多極化と包摂的な経済のグローバル化は中国側が提唱するグローバルガバナンスの方策であり、グローバルサウスに共通する心の声を反映したものだ。一帯一路の共同建設は10年間にわたり続けられ、すでに世界で最も広範囲で規模が最大の国際協力のプラットフォームになった。中国側はグローバルサウスが国際秩序変革の鍵となるよう努力する」とアピールした。

中国はウクライナ戦争、ハマス・イスラエル戦争の2大紛争について「一刻も早く停戦すべき」との考えに基づき、仲介努力に総力を挙げたいとしている。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役、編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。著著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。 ジャーナリストとして、取材・執筆・講演等も行っている。

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