お堀の底には(3月25日)

 会津若松市の鶴ケ城のお堀は約7万5千平方メートルの広がりを持つ。東京ドームの1.6倍ほどに当たる。堂々たる石垣と木々が水面に映え、季節ごとの風情を醸し出す▼豊かな景観を守れるか。ちょっとした心配が積み重なっている。城の西側に位置する西出丸のトイレ裏は、一部が陸地になっていて、背の高い草が生えている。北東側の取水口付近は水深が10~20センチ程度の浅い場所もある。周囲には樹木が多く、落ち葉や土砂が長年にわたり堆積したのが原因とみられている▼このまま放置するわけにはいかない―。会津若松商工会議所は先日、市に掘削工事の計画を作るよう要望した。市によると、150余年前の戊辰戦争から、底までを掘り出した記録は確認できない。歴史の破片が眠っているのか。興味をかき立てられる▼とはいえ、具体的な検討はこれからだ。国史跡であるため、遺構を傷つけないよう注意が必要になる。費用は数十億円に上るとの見方もある。長年、お堀の水質調査などを行ってきたNPOの関係者は、広く寄付を呼びかける構想を思い描く。今こそ知恵を持ち寄りたい。古里の宝を思う温かな市民の心が、澄んだ水面に映えるよう。<2024.3・25>

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