特集は銭湯などの背景画を手掛ける絵師です。長野県木曽町のホテルが大浴場のリニューアルに合わせて、銭湯専門の女性絵師に背景画を依頼しました。描いたのは定番の富士山ではなく「地元のシンボル」です。
雪に覆われた雄大な御嶽山。自然豊かな木曽の風景が描かれています。
ここは木曽町にあるホテルの大浴場。改装に合わせて背景画が描かれました。
それも1日でー。
朝9時ー。
真っ白な壁に青い線が入りました。
背景画を手掛けたのは銭湯ペンキ絵師の田中みずきさんです。
青で引いたのは山のシルエット。木曽のシンボル「御嶽山」です。
銭湯ペンキ絵師・田中みずきさん:
「神聖な山があるんだなと。信仰の山ということで、神々しく描きたい」
背景画を依頼したのは今年で創業32年の「木曽駒高原 森のホテル」。大浴場は木曽に伝わる「薬湯」を再現し、好評でした。
以前はレンガ風のタイルでしたが、ニューアルの目玉として御嶽山を描いてもらうことにしたのです。
木曽駒高原 森のホテル・有本勇次支配人:
「木曽の人は御嶽山を大事にしていますので、それを見ながら、ゆっくりつかっていただこうと思いまして」
全国でも数少ない銭湯絵師。田中さんは大学在学中にベテラン絵師に弟子入りし、2013年に独立しました。
銭湯ペンキ絵師・田中みずきさん:
「(湯につかりながら)絵の中の世界に入っているみたいで面白いなと思ったのが一番はじめ」
これまでに100カ所以上、手掛けてきましたが、そのうちの9割は富士山だということです。
銭湯ペンキ絵師・田中みずきさん:
「富士山は三角形でシンプルな形ですけど、御嶽山は山々が連なっている形なので複雑な所をうまくかけるかなと不安になっています」
「銭湯絵」は下書きなし。バランスを見ながらペンキで仕上げます。
1時間ほどで「ベース」となる絵ができましたが田中さん、少々、納得いかない様子。
峰と峰が離れてしまったということです。
銭湯ペンキ絵師・田中みずきさん:
「手前と奥をもうちょっと連ねて、山が連なっている感じを出さなきゃいけなかったな。細かい山の形を直さなきゃと」
ペンキが渇くのを待って調整しながら細部を描いていきます。白や緑のペンキを入れると徐々に奥行きが生まれました。
見学に来た支配人は―。
木曽駒高原 森のホテル・有本勇次支配人:
「かなり感動していますね。もうこれ完成じゃない?って思ったんですけど、まだまだってことらしいので完成が楽しみです」
田中さんは、事前にイメージ図も用意しますが、その通りに描くわけではありません。
実は当初、御嶽山を左サイドに描く予定でしたが、手側に窓があることなどを踏まえ、当日になって逆にしました。
銭湯ペンキ絵師・田中みずきさん:
「もしかすると窓の側には背の高いモチーフがない方がいいのかなと。構図はその場で変えられます」
緑の自然の中に、茶色の太い線で「枝」を描き、薄いピンクを重ねていきます。
桜です。
テーマは木曽の四季。
反対側には、大イチョウを描きました。
続いて描いたのは、地域で愛される木曽馬です。大胆で迷いがありません。
銭湯ペンキ絵師・田中みずきさん:
「勢いで描き進めていかないと絵がうまくなじんでいかないということがあるので、迷わずにとりあえず描いてみる」
2頭の木曽馬が仲良くー。
今度はスマホの写真を見ながら、町の史跡「岩華観音」に取り掛かります。
当初はお堂だけを描く予定でしたが前日に現地を確認、点在する「馬頭観音」も表現することにしました。
銭湯ペンキ絵師・田中みずきさん:
「一つ一つを見ながら登っていくのが楽しかったりしたので、これは、岩山を描いてその上にお堂がなければ岩華観音の良さが出ないのでは、と思って急きょ変えました」
木曽の風景をこだわって描き、色を重ねること7時間半ー。
ついに背景画の完成です。
桜の木々で春を、茂るみどりと正沢川で夏を表現。そして秋の大イチョウに冬の御嶽山。
銭湯ペンキ絵師・田中みずきさん:
「いろんな峰が連なっているので、特徴が捉えられているか、とても迷いました。最後の最後まで粘って書いて、自分の中では納得できる絵が描けたかな」
ホテルのスタッフからは驚きと喜びの声がー。
木曽駒高原 森のホテル・有本勇次支配人:
「いいですねえ。やはり木曽の象徴である御岳山がすごくきれい。お風呂入りながら見られるのは、ぜいたくかな」
そして、22日はもう一つの大浴場に御嶽山の森の中の情景を描きました。
修験者が訪れるお堂や、豊かな動植物を描く―。
大浴場のリニューアルは4月ごろに終わる予定。
朝と夜で男女を入れ替えるため、宿泊者はどちらの絵も楽しめるということです。
銭湯ペンキ絵師・田中みずきさん:
「1年中楽しめるところだというのは来てみて実感したので、お風呂に入りながら、今は冬だけどまた夏に来てみたいなとか、1年の流れを想像しながら楽しんでいただけたら」