長崎・伊王島周辺海域 希少な実証フィールド 内閣府、水中ドローン試験で成果

中にカメラなどを搭載した耐圧ガラス付きの球体が特徴の「江戸っ子1号」(手前)と、海への投入準備中の「ほばりん」=長崎市伊王島

 長崎県長崎市伊王島の周辺海域で先月、内閣府のプロジェクトによる水中ドローンの実証試験が行われ、一定の成果を収めた。現場は、洋上風力発電などの海洋機器開発に必要な試験を行えるよう、NPO法人が環境整備。地元漁業者の同意を得て、諸手続きの代行や資機材のレンタルもする、国内でも希少な実証フィールドとなっている。
 水深50メートル。いかりで固定された深海探査機「江戸っ子1号」に、自律型無人潜水機(AUV)「ほばりん」が音響通信・測位で位置を自動修正しながら4メートルの間隔まで近づく。海中カメラや観測機材を搭載した江戸っ子1号の観測データを、海中での交互の高速光通信によって、ほばりんで受け取る試験。波の揺れなどで難易度が高いとされるが、ほばりんは無事、江戸っ子の観測データを取り込むことに成功した。
 試験は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環。その様子を海上の作業船で、実施機関の海洋研究開発機構(本部・神奈川県横須賀市)や海上技術安全研究所(東京)の職員らがモニターでチェックした。この技術が確立されれば、江戸っ子を観測途中に海から引き上げることなく、データを効率的に回収できる。
 SIPは2027年度までに、日本最東端の南鳥島の深海でハイテク製品に使われるレアアース(希土類)の採取を目指しており、実用化されれば有効な手段となり得る。ほかに、水生生物の遺伝情報を調べる「環境DNA」の自動採取装置の実験も行われた。
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 本県から遠く離れた場所でのプロジェクトだが、こうした実証試験を行える海域は日本に少ない。周辺の漁業権が大きな障壁となるからだ。だが、伊王島周辺は漁業者の同意を得ているのが最大の強みだ。
 試験を誘致したのは、海洋再生可能エネルギー関連産業の県内集積を目指すNPO法人、長崎海洋産業クラスター形成推進協議会(坂井俊之理事長)。「西彼南部フィールドセンター」の名称で伊王島、香焼、高島の周辺計約30平方キロを設定。漁業権を持つ西彼南部漁協との連携合意を経て、21年4月から運用を開始し、これまでに10件程度の試験や訓練を受け入れた。
 水の透明度が高く、長崎港からの定期船があってアクセスも良い。同協議会は官庁や交通事業者など関係機関への説明や手続き、作業船の手配をサポート。水中カメラや燃料電池などレンタル資機材も用意している。
 同フィールドセンターについて、海洋研究開発機構の担当者は「環境が優れ、作業船の民間企業との連携もうまくでき、(同機構などの)技術者たちは高く評価していた。さまざまな実証試験に活用されるだろう」としている。

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