みんなちがって

 空を飛ぶ鳥に憧れることはあっても、鳥にできないことが自分にはできる-と思う人はあまりいないだろう。詩人のまなざしはどうやら違った。〈私が両手をひろげても/お空はちつとも飛べないが/飛べる小鳥は私のやうに/地面を速くは走れない〉▲金子みすゞの詩「私と小鳥と鈴と」は、こう続く。〈私がからだをゆすつても/きれいな音は出ないけど/あの鳴る鈴は私のやうに/たくさんな唄(うた)は知らないよ〉…。胸を張れる持ち味が誰にでもあるのだと、詩人はうたう▲何かが好き、何かが上手であればいい。不幸な結婚生活を経て、26歳で自ら命を絶った人が、のちの時代の子どもたちに残した励ましにも読める▲きのうは多くの小中学校で始業式、公立高校では入学式があった。戸惑い半分、期待が半分。心なしか、周りが大きく見える頃でもある▲この時代、一人一人の持ち味は制服にも映し出される。スラックスかスカートか男女関係なく選べる、「女子はリボン」という制約がない。制服を一新し、“決まり事”を見直した学校もある。そんな変化が学校生活の変化に直結する生徒もいるに違いない▲〈みんなちがつて、みんないい〉と、有名な一節で詩は結ばれる。なおも〈みんなちがつて〉の途上とはいえ、詩人の微笑が浮かぶようでもある。(徹)

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