<6>大勢が「少し使う」制度に 生活保護を編み直す 希望って何ですか

生活保護などの相談を受け付ける窓口=30日午前、鹿沼市役所

 子どもを育てるために懸命に働き、その結果、子育ての時間を奪われる。それでいて、余裕はないのに貯金や収入額からすると生活保護は受けられない。県央で高校生と小学生2人を育てるシングルマザーのようなひとり親は少なくない。

 「『何もかも貧困』の状態ではなく、『ちょっと苦しい』ときに足りない部分を補えるようにする」

 生活保護を構成する生活、住宅など八つの扶助のセットをばらし、必要に応じて個別の扶助を受けられるようにする考え方。貧困研究の第一人者、日本女子大の岩田正美(いわたまさみ)名誉教授の「生活保護解体論」だ。

 もしアパートの家賃だけでも補助されたら-。県央の母親はダブルワークをする必要がなくなり、子どもと過ごせる時間が増えるかもしれない。

 資産を使い果たさないと受けられない手厚い保護ではなく、そこに至る以前に必要な助けが受けられる。

 岩田名誉教授は「そうすると、多くの人がサービスを使う経験をする」とし、さらに「バッシングを減らす効果を生む」と推測する。

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 宇都宮市内で2人の小学生を一人で育てる母親。アルバイトで生計を立ててきたが、現在は病気で休職している。経済状況だけを考えれば生活保護を受けたいが、周囲の偏見を恐れ、踏ん切りがつかないでいる。

 岩田名誉教授は「周りに何か言われるのではないかと萎縮してしまう状況が問題だ」と指摘する。

 生活保護制度は万策尽きた人を丸ごと守り続けてきたことで、「生活保護受給層」という限られた人々へのバッシングを生み出した。「ずるい」「そこまで落ちたくない」というスティグマ(負の烙印)だ。

 しかし、多くの人が扶助を受ける経験をすれば、受給層というバッシング対象の輪郭は薄れていく。その結果、受給を阻むスティグマは「次第になくなる」。

 岩田名誉教授は「病気の場合は十分回復するまで制度を使い、その後の生活を設計できるようになった方が、そもそも社会全体にとっていいはず」と話す。

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 これまで制度を使わなかった人たちに薄く、広く支援を行き渡らせる解体論。財政負担は増えないのか。

 岩田名誉教授は「例えるなら雨の日には制度に助けてもらい、天気の良い日は働いて納税するような状況が生まれる」とし、多くの困窮者が早期に浮上のきっかけをつかめるのであれば「必ずしも負担増ばかりではない」と説く。

 「生きていればうまくいかないことはあるし、経済状況も常にいいわけではない。つらい状況があったときに、困難を小さくする仕組みや抜け出るための道を考えていくべきだ」

 岩田名誉教授は「大切なのは自立か依存かの二元的な考え方でなく、連帯すること」と強調する。生活保護制度を編み直す解体論は、セーフティーネットの形を通じて社会のあり方も問いかけている。

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