「やれるところまで続ける」町唯一の歯科医務め35年 福井県内最少の池田町【ただ一つ、この町に それぞれの生業】

池田町で唯一の歯科医院を経営する山崎さん=福井県池田町稲荷のやまざき歯科

 福井県池田町唯一の歯科医を務め35年がたつ。やまざき歯科(同町稲荷)の院長山崎治和さん(67)は長年、その職責と向き合ってきた。

 町に1軒のその歯科があるのは町役場のそば。ロビーには待合の小さなソファと、おもちゃが並ぶ畳のスペース。子どもからお年寄りまで日に約20人が来院する。

 山崎さんは出身の福井市で勤務医となり、20代で結婚。長男も生まれ開業を考え始めた頃、転機が訪れた。「池田に来てほしい」。町関係者を介し突然、話が舞い込んだ。

 当時、町では唯一の歯科がなくなり数年がたっていた。「田舎で一人でやっていけるか」という不安と、小さな使命感が芽生え、赴任を決めた。

 街灯のない夜の山道を車で恐る恐る、家族と池田に越した。最初は町の専門職員として診療所に勤務。歯科医不在の期間のためか「子どもは虫歯だらけでショックだった」といい、保健指導に力を注いだ。

 不安を和らげたのは町民の温かさだった。伸び伸び子育てできる環境も気に入り2001年、やまざき歯科を開業。日々の診療に加え保育所や小中学校の健診、町の寄り合いでの啓発活動など幅広くこなした。

 人手確保の悩みは尽きない。現在は山崎さんを含め6人が医院に在籍するが、いずれも50~60代。「若者はにぎやかな場所で仕事をしたいもの。過疎地だから仕方ない」とこぼす。

 それでも、町民一人一人と丁寧に向き合える環境は「優雅さこそないがとても充実している」。「治療が目的ではなく、健康な歯で長生きしてもらうのが僕らの役目。歯科そのものは絶対になくしてはならない」と力強い。

 息子たちは別の道を選び、後継者はいない。若い歯科医がこの地に来ることを望みつつ「やれるところまで続けるつもり」と見据えている。

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 県内最少、人口2230人(3月末)の池田町。町にただ1軒となっている生業(なりわい)を紹介し、過疎社会のこれからを考える。

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