会社で挨拶する距離って…大学生活はコロナ禍だった新社会人の戸惑い 「リアクション苦手かも」

研修を受ける新入社員たち。コロナ禍の中の学生生活には多くの制限があった=4月、福井新聞社

 今春、大学を卒業した若者の多くは、新型コロナウイルスの感染が広がり始めた2020年4月に入学した。小中高校の一斉休校など社会が閉塞感に包まれる中、授業はオンラインになり、サークル活動なども制限された。従来と異なる学生生活を経て社会人となり、「人との距離感に戸惑う」「酒席での振る舞い方が分からない」といった声が聞こえる。

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 「すれ違う時、どれぐらいの距離になったら、あいさつをすればいいのか」

 4月に福井県内の上場企業に入社した嘉代子さん(22)=仮名、福井市=は20年4月、県外の大学に進学した。「会社に入り、あいさつのタイミング、誰にあいさつをすればいいかなど、人との距離感に戸惑いを感じる」と話す。

 大学の入学式はなく、当初は自宅でオンライン授業を受けた。全ての授業が対面になったのは2年生の後半から。「友達はできたけど、コロナの影響で行動が制限されたせいか、少人数の友達としか関わってこなかった」

 オンライン授業は、顔を画面に映さず、自分の声が授業の邪魔をしないようにミュートにした。

 「目上の人の話に対する返事、リアクションが苦手かもしれない」。社内の新人研修会で講師役の先輩社員から「返事をしようね」と言われた。

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 別の県内企業に入社した正夫さん(22)=仮名、坂井市=は県内の大学で4年間を過ごした。最初の1年はオンライン授業で「起きて2分で参加できるから少し生活が乱れた」という。

 新入生歓迎会はなく、サークルには入らなかった。飲み会は仲良くなった友達と「宅飲み」ばかり。「居酒屋で大人数で、というのはないし、目上の人と飲む機会もなかった」

 入社間もない4月のある月曜、飲食店で先輩社員との懇親会があった。「次の日起きられるか不安で、お酒は飲まなかった」。2次会にも参加したが、酒席でどう振る舞えばいいのか今もよく分からない。

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 入学当初にキャンパスに通う頻度が少なかったためか、「友達ができなかった」という声もある。

 横浜市の大学に進学した留美子さん(22)=仮名、福井市出身=は「オンライン授業だった1年間は、同じ学科の人たちとはほとんど関わりがなかった」と振り返る。

 2年生になり、テニスサークルに入った。うっぷんを晴らすように遊んだが、それも2カ月ほどで「疲れちゃった」。たくさんの人と接して、知り合いを多くつくりたかったが、できなかった。「飲み会は年に2、3回。卒業旅行も行かなかった。大学で知り合った人たちとは仲良くなれなかった。もう一生会わないかな」

 金沢市の大学に進学した雅彦さん(22)=仮名、越前市出身=は、サークルにも部活動にも入らなかった。専ら大学とアパートの往復で、時々バイトという生活。卒業旅行は大学の友達ではなく、高校の同級生4人で行った。

 県内企業の40代の人事担当者は「新入社員の多くは人間関係の構築が苦手という印象だが、自分たちの価値観を押しつけてしまうのもどうか。最近は辞めていく社員も多く、非常に悩ましい」と話していた。

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