「人種差別的な事情聴取」をめぐる訴訟の請求が棄却 “外国人母娘への警察官の対応”に違法性は認定されず

原告母(右)、通訳女性(左)(5月21日都内/弁護士JP編集部)

5月21日、2021年に外国籍の母とその娘が警察官から人種差別的で不当な事情聴取を受けたとして東京都に損害賠償を請求した訴訟について、東京地裁は原告の訴えを棄却する判決を出した。

争点は外国籍の母娘に対する警察官らの行為

2021年6月、都内の公園で遊んでいた外国籍の原告親子(以下、原告母・原告娘)は、日本人の男性から「原告娘が自分の子を蹴った」と通報された。

男性の通報を受けて臨場した警察官らは当時3歳の原告娘を母親から引き離し、複数人で事情聴取を行った。また、原告らの住所・電話番号を含む個人情報を男性に提供した。訴訟では、原告娘に対する事情聴取や個人情報の提供について原告母の同意があったかどうかも争点となった。

原告側は「警察官らから人種あるいは民族的出自に関する差別意識ないし偏見に依拠する違法な対応をされたことにより精神的苦痛を被った」として、国家賠償法に基づき慰謝料など計440万円を東京都に請求。

しかし、裁判所は警察官らの対応を「違法と評価することは困難だ」として、原告の請求をいずれも棄却。

判決後の記者会見で、原告代理人の西山温子弁護士は、警察官らの主張が一方的に認められた不当な判決であると語った。

「納得できる結果ではないので、控訴することを考えています」(西山弁護士)

「警察官らの主張が一方的に採用された」と原告側は批判

裁判では、事件当時に現場となった公園にたまたま通りかかった第三者が証人として呼ばれ、警察官らの言動について証言した。

証人によると、警察官らは原告娘に対して「どうせおまえが蹴ったんだろう、おまえ本当は日本語しゃべれるんじゃねえのか」などと高圧的な態度で事情聴取に及んだという。

裁判所は「いささか唐突であり、110番通報に応じて本件トラブルの発生原因について捜査の端緒を得ようとする段階にあった警察官の所為としては不自然といわざるを得ない」と判断。

この判断について、西山弁護士は「そもそも、警察官が実際に不自然な行動をしたことが、本件の入り口。警察官の行った信じられない言動を問題視している訴訟なのに、“警察官がそんなことするわけない”と判断することはナンセンスだ」と批判。

また、原告娘への事情聴取については「カメラに向かっていわゆるピースサインをするなど、緊張や怯えの感情を有していなかったことが認められる」と裁判所は判断。

しかし、原告母によると、当時3歳だった娘は「カメラを向けられたらピースサインをするものだ」と思い、反射的に対応しただけだという。原告代理人の中島広勝弁護士も「大人がピースサインをするのとは意味が違う」と苦言を呈した。

個人情報の取り扱いについても、「電話番号だけ渡すことに同意した」という原告母の主張は判決で取り上げられず、「住所・氏名の提供についても同意していた」という警察官らの主張が採用された。

近年は「レイシャル・プロファイリング」が問題視されている

近年では、警察などの捜査機関が人種や国籍などに基づいて職務質問や捜査の対象を選定する「レイシャル・プロファイリング」が問題視されている。今年1月には、外国系のルーツを持つ日本国籍者や永住者など3名が「人種差別的な職務質問をやめさせよう!」訴訟を提起した。

弁護団は今回の事件もレイシャル・プロファイリングに該当し、警察官らの行為は人種差別的な言動を支持・助長するものであったと主張。国際人権法や人種差別撤廃条約にも反する行為だと訴えていた。

「(外国人と日本人・警察官との)立場の不均衡や、(日本語が不自由な)外国人の言葉の問題などが無視された判決だ。

予断をせず、慎重に事実を判断することが裁判所には求められていたのに、その姿勢が一片たりとも感じられないのが残念だった」(西山弁護士)

記者会見では、原告母も通訳を介して心境を語った。

「本当に不公平で不誠実な判断だ。日本に住む外国人たち全体にとって残念な結果である。また、人種差別を助長するものだとも思う」(原告母)

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