素潜り「濁る視界」 海女漁再開めど立たず 輪島・七ツ島で藻場調査

七ツ島・荒三子島周辺で海に潜り、ワカメの生育状況を調べる海女=輪島沖(写真部・松井亨撮影)

  ●本社記者ルポ

 能登半島地震で素潜り漁の拠点となる輪島港と舳倉(へぐら)島の復旧が見通せず、輪島の海女(あま)たちが苦境に立たされている。22日、漁場の一つである七ツ島での藻場調査に同行すると、例年ならワカメ採りのシーズンだが、地震の爪痕が残る島周辺は安全性が確保されておらず採取がかなわない現状があった。サザエやアワビを狙う漁最盛期の夏場が近づくも再開のめどは立たず、海女たちは「海でしか生きていけんのに」と視界が開けない海を悔しそうに見詰めていた。(奥能登支社長・山本佳久)

 輪島沖の北方約20キロの海上に浮かぶ七ツ島は、七つの本島を含む小島・岩礁群が約5キロ四方に広がる。輪島港から磯入船(いそいりせん)に揺られること約1時間。七ツ島で2番目に大きな荒三子(あらみこ)島に近づくと、人が住んでいないため排水で汚れることはない海は透き通っていた。

  ●島の形が変わった

 この日の調査には輪島の海女漁の担い手である海士(あま)町磯入組合から約20人が参加。船からウエットスーツや水中メガネ、足ひれを身に着け、大きく息を吸い込んで次々に潜っていった。

  ●島、港機能不全で水揚げ場所なく 

 潜った場所の近くの島は無数の岩が崩れ落ちており、船頭の細道龍一さん(48)は「前はこうじゃなかったんです。地震で島の形が変わった」とつぶやいた。

  ●ワカメ「例年の半分」

 海に潜って1分ほどで顔を出した海女が不満げに首を横に振る。後で聞くと、地震が影響したのか、海水温の上昇のためか、藻場の広さが例年の半分ほどしかなかったという。

 他の海女も「あれなら潜らない方がまし。島に渡る船の燃料代もばかにならんから」と肩を落とす。ただ、今年は調査はできても漁ができない。水揚げ場所がないからだ。

 地震前まで、輪島港から出漁する海女たちは、七ツ島周辺での獲物を輪島港に戻って水揚げ。七ツ島からさらに北へ約30キロの舳倉島で暮らす海女は、島で仕分け作業をしていた。

 しかし、地震でいずれも機能不全のまま。輪島港は地盤が隆起し、大型冷蔵庫や海水くみ取り機が破損した。舳倉島は津波で発電所が止まり、生活できない状況が続く。

 磯入組合によると、組合の海女約120人のうち、3分の1が市外に避難した。今も輪島に残る海女の生活の糧は、被災漁場の調査や舳倉島から回収したごみの仕分けなどだ。海女漁保存振興会長を務める門木奈津希さん(43)は「海女漁を守っていかんとならんのに、潜ることができんげん。潜れなくなったら、ただの人や」と悔しそうな表情で話した。

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