小林久隆×成田悠輔 正しいがんの情報を得たい成田の問いに“容易には答えられない”がん治療研究者の事情

第5のがん治療法として注目される「光免疫療法」。その開発者であり、がん治療研究者であり医師でもある小林久隆が、この日一番渋い顔をした。成田悠輔がMCを務める対談番組『夜明け前のPLAYERS』での一幕だ。現在のがん治療について1時間以上にわたる対談の最後に、成田からがん情報の正しい取得方法を聞かれ、しばらく考え込む。ようやく絞り出したのは「医療でできることは限られているんですよね。そこは諦めるしかない部分がある」という言葉だった。

医師だって困る、正しいがんの情報を得る方法

成田が聞きたかったのは、玉石混合の情報があふれる中で、一般人ががんについての正しい情報を選り分けるためのアドバイスだ。しかし長い対談の中で、がん治療や研究の現状について良くない点にも触れつつ真摯(しんし)に話をしてきた小林にとって、情報収集は簡単にアドバイスできるものではなかったようだ。

「医者の立場でしゃべるのと、研究者の立場でしゃべるのとでは、私は違うことを言うと思うんです」。その発言からも小林が考え込んでしまった思いが読み取れる。小林は言う。「医者の立場でしゃべるのであれば、『できることはこれだけしかないから、とにかく病院に行って2、3人の先生に話を聞き、自分が納得できる治療を選ぶしかない』と話すと思います」

「それは、夢のように完治させてくれる治療法はないということを、現実として知るべきだということでしょうか」と成田。

「そうですね。治療は組み合わせればいろいろなことができます。ただ、どの治療から始めるかといった戦略がすごく大事。だから1人の医師だけでなく、例えば外科医と放射線科医、外科医と内科医、と別の方面からものを見られる人から、少なくとも2つの意見を集めたほうがいい」と小林は答えた。

さらに厳しい意見も加える。「ただ、その医師がその患者さんの体の状況をどの程度分かっているか、スキルにもよるから、集めた意見が全てではありません」。そしてやや言いよどみ「ストレートには言いにくいのだけれども、本当にできる人でも間違えることがあるわけですから」と話した。

また、一定の基準をクリアしているため保険適用の治療法は安心できるとしつつも「その選択は大間違いではないけれども、手詰まりになる可能性もある」と言う。そして「だったら何を頼りにしたら良いのかと言われたら……困りますよね」と正直な胸の内を言葉にした。

成田は小林に「がんに対する基本的な知識、例えば、どういう治療法があってそれぞれにどんなメリット・デメリットがあるのかといったベーシックな情報を知りたい場合は、国立がんセンターのような公的機関の情報に頼るほうが良いのですよね」と少し角度の違うボールを投げた。

「それは絶対安全ですね」と小林。しかしまた「安全ではあるけれど、ひとこと加えると……患者さんによって違うんですよ」と言う。「国立がんセンターのホームページはすごく良くできていて、指針にするにはいいんですが、全ての方が同じ形でその治療を受けられるかというと、そうでもないんです」。つまり、情報を得られたとしても、それが患者にとって良い結果につながるかは別問題だということを心に留めてほしいというメッセージのようだ。

成田はさらに角度の違うボールを投げる。「ちなみに、世の中に出回っているがん診療で、こういうものは気をつけなさいというものはありますか?」。少し考えた小林は「“何にでも効きます”というのは難しいんじゃないですかね」と言い、その理由をこう語った。

「がんとの闘いはある種、戦争みたいなものです。がん細胞を体の中から無くすためにどうするかといった戦略は、相手によって変えなくてはならない。だから、広く何にでも効くというのは得策ではないと思います」

成田悠輔はがん予防ためにお酒を止めるべきか!?

成田はがんの予防についても小林に意見を求めた。「したほうがいいこと、しないほうがいいことなど、普通の人が覚えておくべき重要項目はありますか」

小林はまず免疫の話を上げた。「免疫が弱ると体が持つ防御力を(がん細胞に)破られやすくなるので、避けたほうがいいですね。例えば、ひどい風邪をひいて長い間ダウンしていたといった状態は、かなり免疫が弱まっています」

さらに「アルコールも、アセトアルデヒド(※)から“がん化”するというのがはっきりし始めてきました。酒量はたくさんじゃなければ良いですが、飲むと赤くなる人は酵素が弱いためアセトアルデヒドが貯まりやすいです」と話すと、成田が即反応。「僕は赤くはならないんですが、確実に飲み過ぎです。まずいでしょうか」

※アセトアルデヒド:アルコールが肝臓で分解された時に発生する有害物質

「アセトアルデヒドを分解する酵素は2種類。赤くならない人は、この2つの酵素が両方そろっていたり、強かったりしてアセトアルデヒドが貯まりにくい傾向にあります。だからと言って、飲み過ぎないにこしたことはないです」と小林はたしなめた。

収録後成田は、小林のこの言葉に「酒について、もうちょっとだけ考えようと思いました。酒量を10%くらい減らすところか始めようと思います」と宣言した。

睡眠をきちんととったり、適度な運動をしたりと、日常の体の維持ががん予防には大事という小林に「特にこの点が重要とはっきりしたものはないんですね。要は、バランス良く健康的な状態を維持するという当たり前のところにたどり着くのですね」と成田。

「がんになる因子はたくさんあります。遺伝性のがんはものすごく強いドライバーになりますが、他の因子にどれが一番強いという評価はありません。そのため、先ほどのアセトアルデヒドと酒の関係や、日本人に胃がんが多かったのはヘリコバクタ―ピロリという感染症が要因のため、直接的な因果関係が分かっている因子はできるだけ取り除いておいたほうが良いでしょう」と小林は答えた。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

「夜明け前のPLAYERS」
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