被災者「半壊も認めて」 公費解体、全員の同意不要を国通知

  ●復旧迅速化を期待

 環境省と法務省は28日、能登半島地震で被災した建物の公費解体について、全壊などで建物の機能が明らかに失われた場合、所有者全員の同意がなくても、市町の判断で解体できるとの通知を関係自治体に出した。所有者の同意がネックとなって申請できない被災者が多かっただけに、作業の迅速化が期待される。一方、半壊など建物の機能がある程度残っている場合は従来通り全員の同意が必要で、被災者からは「半壊を含めて全て同じ条件にしてほしい」との声も上がる。

 通知は、石川、富山、福井、新潟各県の関係自治体に出された。「建物性を失った」とみなされるのは、1階部分が完全につぶれたり、火災で焼失したりしたケースで、法務局登記官の職権で建物が「滅失」したとする登記手続きを実施する。思い出の品など必要なものを持ち出したのを確認すれば、市町の判断で公費解体できる流れとなる。

 公費解体を巡っては、建物の所有者が既に死亡し、名義が相続人に変更されていない場合、相続人の権利を持つ全員の同意が必要となる。所有者が亡くなってから時間が経過するほど相続人の数は増え、「全員の同意を集めるのは無理」と途方に暮れる被災者もいた。

 これを受けて輪島市は相続人が複数いる場合、申請者1人が宣誓書を提出すれば解体を認める方式を取り入れた。しかし、この方法では、後に相続を巡るトラブルに巻き込まれるリスクがあるため、珠洲、能登、穴水の3市町は導入に慎重姿勢だった。

 今回の国の通知について、珠洲市の泉谷満寿裕市長は「大きな前進だ」と評価し、穴水町の吉村光輝町長は「自治体に配慮されていてありがたい。迅速化の一助になる」と述べた。輪島市の坂口茂市長も「焼失した建物や倒壊した住宅の撤去が早く進む」と期待した。

 一方、建物の被害状況によって同意が必要か不要かが分かれる「ダブルスタンダード」を懸念する向きもある。大森凡世能登町長は今回の要件緩和を歓迎した上で「同意不要の対象とならなかった建物についても、円滑に解体が進められるようにしてもらえればもっとありがたい」と指摘。輪島市の職員は「どんな場合でも同意が不要と誤解されかねない」とし、全てのケースで条件が統一されるのが望ましいとした。

 県によると、能登半島地震に伴う県内の公費解体の申請数は26日時点で15市町で合計1万5614棟となっている。県が想定する2万2千棟の70%に相当する一方、着手数は831棟にとどまっている。

© 株式会社北國新聞社