「番組連動長尺CM×ポストロール広告」がコンテンツ軸の深いファネルを生む 〜フジテレビ『この素晴らしき世界』担当者インタビュー(後編) / Screens

テレビコンテンツならではの特色を活かせる広告施策として、テレビと同等のCMフォーマットを持つ民放公式テレビ配信サービス「TVer」の広告枠を利用した「世界観連動CM」の試みが実施された。具体的には、SNSを中心に話題となることが多いドラマを舞台として、作品の登場人物やトンマナ、設定を取り込んだミニドラマ形式の長尺CMを配信するといったもので、本編と地続きの世界観が視聴者に対して高いブランドリフト効果をもたらしている。

その直近事例として本記事では、フジテレビで2023年7〜9月クールに放送されたドラマ『この素晴らしき世界』にて行われたTVer見逃し配信のポストロール(本編後CM枠)広告施策を前後編にわたり紹介する。

後編の今回は、株式会社フジテレビジョン 営業局 営業推進室 デジタル営業部・迫本竜治郎氏と株式会社博報堂DYメディアパートナーズ AaaSビジネス戦略局 戦略二部 ビジネスプロデューサー・文屋賢大氏にインタビュー。TVerポストロール枠と長尺CM、CTV広告の相乗効果によって生まれたブランドリフト効果について詳しく伺う。

■「もはや“地上波補完”ではない存在感」ポストロール広告に見たTVerのリーチ力

──今回の施策では認知の強化と深化が大きな狙いであったということでしたが、実際の効果としてはどのような結果になりましたか?

文屋賢太氏

文屋氏:コンテンツ全体としてのトータルリーチ17.2%のうち、今回のTVerポストロール広告を介したインクリメンタルリーチは5.7%となり、特にF2・F3層は10%と高い結果が得られました。さらにTVerを介したCTV視聴者の含有率が全体の半数近くという極めて高い結果となり、ここでもTVerの大きな貢献が数字の上でもはっきり現れました。

──ターゲット層への認知面でTVerへの出稿は効果的だったということでしょうか。

文屋賢大氏

文屋氏:ドラマの番組スポンサーによるTVer広告という座組であったことに加え、ポストロールでの長尺CMという形でCM表現全体を拡張できたことが大きな効果につながったと考えています。もはやTVerは、テレビ広告媒体のひとつとして重要な存在であると感じました。

■「繰り返し見る→印象付けられる」番組連動CM×見逃し配信が作り出す相乗効果

──ドラマの世界観との連動や、「見る人によってCM中の看板の中身が違う」といったクリエイティブの出し分けなど、今回は視聴者の関心を高く保ち続ける仕掛けが多く込められていましたが、視聴者のみなさんの反響はいかがでしたか?

文屋氏:今回の施策にあたってX(旧Twitter)の番組公式アカウント上でも告知を行いましたが、投稿に接触して「CMを見たい」と意向を持たれた率は16%と一定数に達しました。実際に接触された方の中では「ドラマと地続きの雰囲気で楽しめた」「看板のバリエーションをコンプリートするために何度も繰り返しTVerの見逃し配信を見た」といったポストが多く見られるなど、好感度とエンゲージの高さを印象付ける結果となりました。

実際に視聴した人のポスト例①

実際に視聴した人のポスト例②

──ドラマと同じ世界観で楽しめる連動CMの雰囲気と、配信期間中に何度も繰り返し見返すことができるTVer見逃し配信の特長が相乗効果を生み出したのですね。

文屋氏:フリークエンシーに関する調査結果では5回以上の接触が多く、ドラマを通して視聴する熱量の高いファンの方々へ特に強く刺さったように思います。CMを通じた想起イメージについても、こちらが狙った訴求ポイントにおいて高いスコアを記録しました。

リアルタイム視聴がトレンドとしては話題になることが多い一方、TVer見逃し配信はよりファンの方々に向けて商材を印象付ける場として効果的に機能したと言えるでしょう。

■驚異的な完全視聴率と購入意向、「行動につながる視聴者層」が集まるCTV環境

──大画面に由来する完全視聴率や有音再生率の高さなど、CTV環境における広告配信の有用性が注目されています。今回も配信形態の一つとしてCTV向けの配信がありましたが、他の視聴手段と比較して視聴者の意向に変化や特徴は見られましたか?

文屋氏:完全視聴率の比較では、CTVはスマートフォンの37.7%、PCの41.1%を大きく抜いて53.9%と非常に高い数値を記録しました。やはり視聴デバイスとしてCTVは大きく優位であるというのが率直な感想です。

ブランド指標の面で見ても、好意や購入意向においてCTV経由での接触者がもっとも高くなっています。こうしたところから見ても、行動につながりやすい層を効率よくカバーできていると言えるでしょう。

──広告媒体としてのCTVの強さが現れているということでしょうか。

文屋氏:CTV経由での接触者層はとりわけ反応の高さが際立っていると感じました。今回はポストロール、かつドラマとCMの世界観を揃えることで離脱を最小限に抑える試みを行いましたが、それを踏まえても4分に達する長尺CMの完全視聴率がこれだけ高いというのは驚異的です。

■コンテンツ軸の深いファネルを形成する「番組連動CM×長尺CM×ポストロール広告」

──改めて、今回の施策の“勝因”をお聞かせください。

迫本氏:今回の施策では地上波とTVerの両輪でコンテンツのリーチを広げつつ、長尺CMという形式にすることでファネルを深いところまで落とし込むことができたと実感しています。

認知を取りつつ、興味関心、比較検討、購入意向まで一気通貫のファネルを1つの広告内で作るということは普通の純広告では極めて難しいでしょう。今回は番組連動CMかつ長尺のCM、さらにドラマの余韻に浸っているポストロール枠での展開という組み合わせが功を奏し、強い親近感と没頭感を生み出したことが一気通貫につながったのだと思います。

──広告というよりも「ブランド発のストーリー」として受容された感がありますね。

迫本氏:そうですね。まさに「ブランドデッドストーリー」という一種のコンテンツとして、違和感なく視聴者の方々に受け入れていただけた感じがします。フジテレビで2022年10〜12月クールに放送したドラマ『silent』で実施した同様の施策も大きな反響につながりました。「TVerポストロール広告×長尺CM×番組連動」という組み合わせ「ブランデッドストーリー」は、これからの広告スキームとして業界の中に浸透していくのではないでしょうか。

──さらに実行動への導線を作るうえで、CTVとの組み合わせも有効ですね。

迫本竜治郎氏と文屋賢大氏

迫本氏:視聴後さらに情報を集めたり、店舗へ足を運んだりといった具体的な行動につながりやすい環境がCTVの視聴者層では特に強く出ていることがわかりました。クライアント様が求めるブランド価値が届く層が浮かび上がったとも言えるでしょう。ブランドリフトという観点で見ても、こうしたセオリーが見えてきたことは非常に意義深いと思います。

文屋氏:CTV環境ではポストロールの完全視聴率が約90%と、驚異的な水準です。広告会社の立場から見てもCTVには、スマートデバイスを上回る広告効果の高さを感じています。

今回の施策では純広告の接触者層と比較して番組連動CM接触者層のブランドイメージ想起力が上回っていますが、中でもCTV経由で番組連動CMに接触した層は純広告の接触者層と比較して、最大で3倍近く高い想起を記録しています。ブランドリフトの面で「番組連動CM×長尺CM×CTV」という組み合わせは非常に高い効果をもたらすと言えるでしょう。

迫本氏:放送局由来のプロコンテンツとクライアント様のブランドを紐づけることで長尺CMでも視聴者の方々に受け入れていただけるということは、広告業界的にも大きなエポックメイキングであると思います。同時に、他端末と比較して視聴者の注視度が極めて高いCTVへの配信によって「ブランドメッセージが受け入れられやすい発信形態」も見えてきました。

──最後に読者のみなさんへメッセージをお願いいたします。

文屋氏:これからは番組連動CMをきっかけに地上波の視聴へ循環させるというように、視聴習慣の“エコサイクル作り”が意識されることになっていくでしょう。地上波向け、TVer向けと区別するのではなく、コンテンツに紐づいた一体的な広告展開が大事になってくると思います。

迫本氏:番組連動CM「ブランデッドストーリー」は視聴者の方々に「ストーリーの思い出」としてブランドメッセージが深く残る、プレミアムな広告体験と言えるでしょう。今後も引き続き、信頼度の高いコンテンツとともにブランドを醸成する広告展開の取り組みを続けていきたいと思います。

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