「親子2代」業務用の針メーカーが新商品開発・クラファン挑戦 小さな針に込められた「刺さる」モノづくりとは【岡山】

岡山県美作市で業務用の編み機などに使われる針を作っているメーカーが職人の技を生かし家庭で使うことができる暮らしの道具を開発。クラウドファンディングに挑戦しています。小さな針に込められた親子2代の思いを取材しました。

業務用の針メーカー「100年前のミシンにしか作れないものがある」

一本の鋼線が20以上の工程を経て「ベラ針」と呼ばれる特殊な針へと生まれ変わります。

業務用の編み機に数百本から数千本単位で取り付けられ、タオルやニット生地など私たちの生活と関わりのある様々な製品を作り出しています。

(ウィーブハリサ 米戸潤代表⦅38⦆)
「こういった農業用のネットとか。これもうちの針で編まれたもの」

美作市にある従業員3人の針メーカー「ウィーブハリサ」です。「ベラ針」を主力商品に100種類以上の針をオーダーメイドで製作しています。

(ウィーブハリサ 米戸潤代表)
「これは100年前のミシン針の復刻なんですよ。当然100年前なのでこのミシン針メーカーが無いということで客から要望があったんですけど」手作業で金属を削り出し成形されたという職人技の結晶です。

(ウィーブハリサ 米戸潤代表)
「実際こうやって100年前のミシンにしか作れないものがあるということが僕らにとっても勉強だったので、すごくいい仕事だったと思う」

家庭向けの新商品を開発「針職人の世界の奥深さ」

そんな業務用針メーカーがこのほど開発した新商品。繰り返し使えるフードピックです。家庭向けの商品を考案したのは職人の手仕事を広く知ってほしいとの思いからです。

(ウィーブハリサ 米戸潤代表)
「自分自身が針職人としては未熟だという自覚があって…ベテランの職人を見ているとすごいなと思う。数々の工程とか細かい作業を知恵を出してやっている。これをまず知ってほしいなというのがあって。僕もすごいと思うので…」

美作市で育ち、大阪にある釣りのライフジャケットなどを作る会社で営業をしていたという米戸潤さん。6年前に父親の進さんが体調を崩したことがきっかけで仕事を継ごうと決意し帰郷しました。

(ウィーブハリサ 米戸潤代表)
「今はすごく元気なんですけど、当時すごく谷があった時があって帰ってきたんですけど、最初は全然思い入れがなかったですね。モノづくりとが好きでもなかったし…」

しかし父親と二人三脚で仕事をこなしていくうちに針職人の世界の奥深さに魅了されていきました。

(先代 米戸進⦅83⦆さん)
「お客さんが一番心配されていたんです。私が歳だということは客はみんな知っているんで。息子が帰ってきたといったらみんな喜んでました。私の代でポンと切れたらお客さんも辞めないといけないということだったので…」

針産業は国内の需要が激減、独立を決意

繊維産業とともに発展し高度経済成長期にピークを迎えたという針産業ですが、繊維工場の相次ぐ海外移転により国内での需要が激減。かつて進さんが勤めていた「ハリサ工業」も2001年に工場閉鎖を余儀なくされました。しかし、「針を作り続けてほしい」という顧客の要望を受け進さんは独立を決意。岡山工場の一部を引継ぎウイーブハリサを設立したのです。

(先代 米戸進さん)
「経営のけの字も分かりません。作ったらお客さんが買ってくれるから、とにかく20年間はがむしゃらに」

稼働している機械のほとんどはハリサ工業から受け継いだものだといいます。

(先代 米戸進さん)「これが一番年季が入っている機械です」
Q「どのぐらいですか」「分かりません。私が入った時にはとっくに使っていた。針の溝を切る機械です」

針職人のこだわりが詰まった「フードピック」

60年以上前の機械と職人の技術で作り出すウイーブハリサの針。潤さんが考案したフードピックには針職人のこだわりが詰まっていました。

(ウィーブハリサ 米戸潤代表)
「金属製のフードピック、爪楊枝なので木よりも滑りやすい。凸凹を付けることで抜けにくくしている」

刺しやすさと安全性…手作業で研磨します。印象的な持ち手は知り合いの木工職人が担当しています。

(ウィーブハリサ 米戸潤代表)
「僕ら1人ではできることが限られている。仲間に協力してもらえれば製品の幅が広がると実感したので」

「親子2代のモノづくり」クラウドファンディングに挑戦

フードピックを通して針工場の事を知ってもらおうとクラウドファンディングに挑戦中ですが、すでに目標金額の2倍以上が集まりました。

(ウィーブハリサ 米戸潤代表)
「一般の方とひとりひとり繋がっていけるのは、すごく貴重なことだと思う。そう考えるとアイデアが浮かんでくる。『もっとこうしたい』とか」

家庭向けの商品を作るという2代目のアイデアに進さんも我が子ながら感心しています。

(先代 米戸進さん)
「いいことだなと思っています。近所の人もここで何を作っているのか知らない。息子が作った商品で『こういうものを作っているんだ』と認識してもらったということですね」

(ウィーブハリサ 米戸潤代表)
「既存の仕事は大事なんだけど、これ一本で生き残るのは厳しいという実感が正直あって、新しい種まきをしていかないといけないなと」

かつて全国に100社以上あった針メーカーは現在5社未満に。こうした中、誰かに「刺さる」モノづくりをと小さな針に思いを込めます。

(スタジオ)
フードピックはクラウドファンディングのリターンとして受け取ることができます。あさって(5月31日)までクラウドファンディング「CAMPFIRE」で実施しています。6月からはウィーブハリサのECサイトで販売が開始されるということです。

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