AI画像解析を駆使した「世界にひとつだけのソテツ」の嫁探しが進行中

Image:University of Southampton

世界でもっとも孤独といわれている絶滅危惧種の植物、Encephalartos Woodii(E.Woodii)の自然交配を行うべく、100年以上も発見されていない同種の雌株を差額すプロジェクトが、サウサンプトン大学の研究者らによって行われている。

E.Woodiiが発見されたのは1895年のこと。恐竜がいた時代よりも古くから存在していたソテツの一種で、南アフリカ・ダーバン植物園のジョン・メドレー・ウッド氏が同国オンゴイエの森林で発見し、その名にちなんで命名された。

しかし、発見当時から一度も雌株は見つからず。雄株もウッド氏が発見した1本だけであったため、1899年に主幹の基部サンプルを取得し、ロンドンのキュー植物園を含むいくつかの植物園に移植された。その後も何度かサンプル取得が行われたが、野生の株は1916年に伐採して南アフリカ・プレトリアの植物学者による保存を試みたものの、1964年に枯死したとされている。

つまり、現存しているE.Woodiiはすべて、このもとの1株から派生したクローンである。そのため、すべて雄株であり、自然繁殖することはできない。

サウサンプトン大学の研究者ローラ・シンティ博士は、この永遠に現れない恋人を待つかのような「E. woodii の物語に感銘を受けた」と述べている。そして、かつては雌株がいたはずの絶滅危惧植物の自然繁殖を目指して、ドローンに上空からよって撮影した森林の画像を解析し、まだ誰も発見していないE.Woodiiの雌株を探すことにした。

Iamge:Laura Cinti

シンティ博士はこのプロジェクトについて、AIが植物をその形状によって認識するよう、画像認識アルゴリズムを強化したと説明する。「われわれは、植物を認識するAIモデルを訓練するために、植物の画像を生成し、さまざまな生態学的環境に配置してアルゴリズムに解析させた」とした。

2022年に行ったドローンを用いた最初の調査では、数万枚の写真を撮影。マルチスペクトルセンサーを用いて植物が生きているか死んでいるかの判定や種の特定などを行った。この手法は、上空を飛んで肉眼で固有の植物を探すよりも詳しい調査を実現するものだが、E. woodiiの新たな個体はみつかっていない。

Image:Laura Cinti

そしてドローンによる画像撮影は、いまやAIの力を借りてさらに調査範囲を拡大している。これまでの間には、オンゴイエ森林を約79ヘクタールをAIを用いて探索してきた。しかしオンゴイエ森林の総面積は約4050ヘクタールもあり、探すべき場所はまだまだたくさんある。

Image:C-LAB

シンティ博士はドローンとAIによる解析のほかに、化学的あるいは生理学的操作によってE. woodiiの性転換が可能かどうかを調査する新しいパートナー・プロジェクトにも取り組んでいる。博士曰く、他のソテツ類では、気温などの環境が急激に変化した場合などに、自発的な性転換が発生するケースに関する報告があるとのことだ。その条件となるプロセスがより完全に解明されれば、E. woodiiでも性転換を誘発できるのではないかと博士は期待している。

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