日本の日常を堪能できる飲食店が若年層の支持を集めている。人気の秘訣(ひけつ)は日本らしいメニューに加え、居心地の良さだ。お店で時間をゆっくり過ごし、訪れた客同士の交流を楽しんでいるという。韓国で日本旅行客が増加する中、旅行先で味わった日本の空間を求める人は今後も増えていきそうだ。今回は、ソウルにある3つの店舗を紹介する。【岡本あんな】
店員さんやほかのお客さんとのコミュニケーションが楽しいので毎週末来ています——。こう話すのは、城北区普門洞にあるカフェ「共有(きょうゆう)」の常連客で、大学生のオ・ジョンミンさん(22)。
共有は、1994年生まれの3人が運営するこぢんまりとしたカフェだ。経営者の1人、イ・ヨンソクさん(30)は日本の古着ファッションに興味があり、ワーキングホリデー制度を利用して2020年に1年間、東京で暮らした経験を持つ。韓国には少ない小規模なカフェをたくさん巡って、帰国後の21年8月に友人2人とカフェをオープンした。
東京の代々木上原にあるカフェを参考に、バーカウンターを隔ててバリスタと客が会話を楽しめるように設計した。こだわりは、自然と日本にいるかのように感じられる空間づくり。新型コロナウイルス禍が明けてから東京へ旅行に行った人たちが、日本のような雰囲気を楽しみたいと来店するケースが増えているという。
「コミュニケーションを楽しめるカフェ」とのコンセプト通り、お店で会話を楽しむうちに常連の人同士で友達となり、経営者も加わって一緒に東京へ旅行にも出かけた。10人ほどのコミュニティーがいくつか形成され、イさんは「それで店名を『共有』にしたんです」と由来を語る。
■競争せず1日を楽しむ余裕を
竜山区竜門洞には、今年3月に納豆を専門に扱う店がオープンした。店主のジェ・ジュンヒョクさん(34)は「日本とベトナム、韓国のスタートアップで働いて、成長することができた。でも仕事を続ける中で効率化や最適化に追われることに疲れを感じ、本質的なことに集中した生活を送ろうと起業を決意した」と話す。
店名は「納豆豆(ノットトゥードゥー)」。余計なことに気を使わないため、「Not To Doリスト(しないこと)」と納豆をもじって付けた。
ジェさんは、大阪と京都の食品会社から納豆作りを教わった。どちらも、納豆作りを学びたいと連絡すると快諾してくれた。現在は、15キロほどの納豆を週3回作っている。
納豆豆は、昼はランチを提供し、夜はバーとして営業する。夜は、本を読んだり考え事をしたりする人向けの、1人で過ごせる空間を提供している。ジェさんによると、「健康的な食事や運動などの余裕を持ちたい人たちが、激しい競争から離れ、自分に本当に必要なことについて考える空間として訪れている」という。
■限りなく日本に近い空間づくり
「冷やし中華はじめました」。入り口にそう書かれた西大門区延禧洞の喫茶店「ロイヤル・サロン」は、日本の時代トレンド「昭和レトロ」を韓国で楽しめる喫茶店だ。
「1997年に親戚が住む兵庫県姫路市を訪れた時、喫茶店で朝食を取る『モーニング文化』に魅力を感じた」。店主のユ・ジェスンさん(45)はオープンした理由をこう話す。
日本の喫茶店に若者からお年寄りまで幅広い世代が訪れるのを見て、韓国でも地域の人々がそれぞれ自分の時間を過ごせる空間をつくりたいと18年にロイヤル・サロンをオープン。午前8~11時はモーニングメニューを提供している。
喫茶店の近くではカレー屋「姫路(ひめじ)」とおでん屋「ヒロ(姫路の韓国語読み)」、立ち飲み屋「スローモーション」という名の店も経営している。19年に起きた「ノー・ジャパン」(日本製品の不買運動)や20年からのコロナ禍では売り上げが少し落ち込んだが、変わらず営業してきた。「限りなく日本に近い味や空間を韓国人に紹介していきたい」とユさんは話した。