【インタビュー:後編】キズ、来夢が“白塗り”に乗せる未来「信じてくれる人には答えようと思ってる」

キズのボーカル・来夢が、語りたいままに自分の“いま”を伝えるインタビュー。前編では、キズの来夢が感じるようになった「ライブでの”匂い”」の正体を明かしてもらった。

後編では来夢がいまになって感じるようになった「続けるかっこよさ」から話が展開していく。最初に「続けるかっこよさ」を教えてくれたのは、キズのトレードマークとも言える”白塗り”の先輩だったようだ。

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◼︎「歌詞の一行」を愛してもらえたら、それでもういい

──前編の最後に語っていた「続けるかっこよさ」とは、これまで話したことのない美学ですね。

来夢:「続けるかっこよさ」を教えてくれたのは、ニューロティカかもしれないです。最初に出会ったのは高校生くらいの時で、宮崎で対バンしたことがあるんですよ。そのときにいたあっちゃんが主催ライブに出演してくれました。そのとき、「腰が痛い」と言いながらメンバーに心配されながらリハしたり、楽屋では「白塗りが乗らねーんだよ」とか言ってるんですよ。それで、「オレも白塗りが乗らなくなるまでバンドやりたい」と思っちゃったな。

──ロックバンドが老いることについて、どう捉えていますか?

来夢: reikiにもこういった話をしたことがあって。バンドっていうものがロックなわけじゃなくて、人生がロックなわけだと。人生のほんの一部がライブっていう意識を持てばもっとロックに生きられるんじゃないかという話をしました。恥ずいわ(笑)。

──そうなると気になるのは、来夢さんが考える「ロックとは何か」です。

来夢:確かに! こういうことを考えているひとのロックは、「人生」ってことになってきますよね。この考えが楽曲に反映されたのは「リトルガールは病んでいる。」(11thシングル)くらいからかな。

──何を考えていたから、あの曲はできたのでしょうか。

来夢:ウクライナとロシアの戦争がはじまって、シェルターで子どもがギターを弾きながらオリジナルの曲を歌っていたんですよ。それを見て「僕がそこにいたらどんな曲を作るんだろうな」と想像して、「エル・チャポと穴掘りたいな」とか、戦争するよりも「モハメド・アリの肩パンくらってた方がおもしろくないかな」って思ったんですよね。皮肉がはじまりです。イメージですけど、「黒い雨Ⅱ」みたいな感じかな。「リトルガール〜」の方が等身大ですね。

──歌詞だけ見たら「黒い雨」の方が等身大かと思いました。

来夢:あれは5年後くらいに歌ってようやく追いつけるくらいかな。大きな曲です。「リトルガール〜」のタイトルもこれまでの僕だったら「リトルボーイ」を連想することを直接的に書くと思うんですよ。でも説教くさくならないように「リトルガール」にして、「病んでいる。」と続けました。キズのファンからしたら「また変な曲が出てきたよ」みたいに思わせてしまったかもしれないです。でも「ダサい曲なわけない」と思って待っていてくれたはず。本当に良かったですよ。かなりリスキーなタイトルでしたから。僕の使命は「当時のことを興味のない人に興味を持ってもらうこと」だと思いました。「黒い雨」のときは「世界平和をどうにかしてやろう」と思っていたんですけど、「リトルガール〜」では「こういうことあったんだけど、どう思う?」とただ問いかけました。

──以前は「オレらは壊すだけだ」と話していましたね。

来夢:言ってたな〜! いまは曲に対する目的が増えたんだと思うんです。曲を聞いて「こうしてもらいたい」っていう思いは、あるにはあるんですよ。でも、より曲の背景にある心に忠実に書けるようになったっていうのかな。語弊があるかもだけど、音楽が手段になってるんですよ。昔は何かを伝えようとか、遠くの人に何かを伝えよう、みたいな意識だったのが、いまはもっと身近なひとに届けるイメージです。

──“音楽が手段”の意味は、音楽が例えばビジネスのための手段に成り下がっている……という意味ではないですよね?

来夢:もちろんです。僕は具体的な一つの何かとか、特定の一人の誰かに歌っているひとが好きなんですよ。“みんなの歌”じゃないんです。みんなに伝える必要はない。「ストロベリー・ブルー」なんて「メンバーみんなでまた来世も一緒にバンドやろうな」って曲ですよ。それを遠回しに遠回しに書きました。歌詞に《約束のない約束の木》ってありますけど、つまり約束してないんですよ。だからこそ、約束していたことにして「またバンドやろうよ」ってことです。この本音を伝えるための曲です。そういう意味の、“音楽が手段”なんです。メンバーにあとで伝えたら「そうなの? 知らなかった!」ってなるよな(笑)。

──「早く言ってよ!」ってなりますね(笑)。

来夢:ハハハハハ!(笑)。「雨男」も最後の《ボクノイノチカネニカエロ》って歌詞は、社長に宛てたものですよ。あの言葉があったら一生頑張ってくれるんじゃないかな。キズを信じてくれる人の期待には全力で答えますよ。だから、音楽は本音を伝える手段です。手段になったときの音楽って、めっちゃ強いんですよ。だって本気ですから。

──音楽が伝えるものは大きいですよね。

来夢:そうそう。“音楽が手段”というと、いやらしい感じがあるじゃないですか。でも武器になると強いんですよ。「誤解」のインタビューのときって、「すべて理解して守らないと気に食わない人間」だったじゃないですか。

──真意が伝わっていないと感じて、怒ってましたからね。

来夢」そうそうそう(笑)。だけども、曲は歌詞の一行好きになってもらえれば、大切にしてもらえればそれでいい。X(旧Twitter)とかのプロフィールに一行入れてくれるひといるじゃないですか。歌詞を愛してもらえることがすごく嬉しいですね。自分の人生を愛してもらえているような気がします。歌詞に嘘は一切書いてないので。

◼︎ファンに「ありがとう」がようやく言えるようになった

──ファンとの関係も変わっていそうですね。

来夢:何かあるかな……。あ、ライブで「ありがとう」って言うようになったんですよ。

──「ライブでありがとうで終わらせたくない」と話していたあの来夢さんが。

来夢:ようやく言えるようになったんですよ。「ありがとう」がかっこよく言える人間になってきたのかな。これまでは「ありがとう」って言葉に違和感があって、「ありがとう」以外の言葉を探していたんですけど、すべきことは言葉探しじゃなかったんです。「ありがとう」という言葉が似合わなかった、ただそれだけです。私生活でも「ありがとう」って言うようになりましたね。僕は、生活がライブに直結してるんですよ。ファンも自然と反応してくれるし。最近のワンマンは急に温かい雰囲気になったりするんですよ。かと思えばバシってやって終わるライブもあるし。いまはライブによってキズの印象が違うかもしれないです。裏公演(<キズ BLOG MAGAZINE 限定「三大都市裏公演」>)なんか私服でやってますからね。

──来夢さんのいろいろな一面が出るようになりましたね。

来夢:余裕が見せられるようになったのかな。曲のこともあんまり話したくなかったけど、いまなら話せることも多いしな。例えば「Bee-autiful days」リリース時は、コロナでインタビューがなくてどこにも一回も話してないんですけど、あの時ってド鬱だったんですよ。いまだから言えますけど、飯も食えないし何も考えられない。朝も起きれず夕方に起きて、気づいたら寝る時間……なんていう生活。死にそうになりながらギリギリ保って書いた曲です。こんな日々に何の価値があるんだっていう皮肉を込めて「Bee-autiful days」です。

──ギリギリの状態で作った曲だったんですね。

来夢:今だから言える話ですね。たまたま調子が良かった日に近所の定食屋にいって。そこで聴こえてきた包丁で切る音のテンポが心地よくて、「これを曲のテンポにしよう」としたら「このテンポって「ピンクスパイダー」と一緒だ」って気づいたんですよ。ちょっと運命を感じるじゃないですか。「音楽に救われることってやっぱりあるんだな」って思いますね。最後の方の歌詞の《ちゃんと愛され》からの部分が象徴的かな。「Bee-autiful days」は表現するひとたちにとっての掟というか、ステージに立つ時の心得を生意気ながら残したつもりです。

──リリースされて数ヶ月経ってから曲を知るのも楽しいですね。

来夢:あの曲は、本当はしっかり解説したいんですよ。例えば歌詞にはメンバーの物語が書いてあります。《冷蔵庫の「DROP DEAD」》っていうのは、reikiが17か18の頃の話。彼の家のちっちゃい一人暮らし用の冷蔵庫にベタベタとステッカーが貼ってあって、そこにきったないマッキーで「DROP DEAD!!!」て書いてあったんですよ。

──念を感じます(笑)。

来夢:聞いたら「自分で書いた」って言うんですよ。「めちゃくちゃ怖いなこいつ」って思ったっていう(笑)。ほかにも、《チキンも吐きな》は僕がコンビニのチキンを吐きながらステージで歌っていた話とか。この曲は、キズのテーマソングですよ。

──背景がわかると曲の楽しみ方も増えますね。

来夢:おもしろい話たくさんあるんだけど、誰も聞いてくれないからここで初めて話しました(笑)。もう時期ハズレちゃったけど、それもいいなって許しちゃってる自分もいるんですよ。人に何も言わずに曲だけ楽しんでもらって、いま聞くと新曲のように聞けるかもですね。

◼︎最新作は6分。自分には収まりきらない曲だけど表現したかったから、協力してもらった

──時期でいうとAIで音楽が作れるようになったという世の中の変化もあります。僕には夢があって、キズの歌詞とそのときの来夢さんのインタビューを全部AIに学習させて、分析させてみたいんですよ(笑)。

来夢:最悪だそれ(笑)! 確かに僕の歌詞も学習させたらそれっぽいのを出してくれますよね。急にキズの新譜がハイスピードになったり、アルバムが出てきたりしたら、疑ってください(笑)。

──「とうとうやったな」って思いますね(笑)。アルバムはいまのところベストアルバムの『仇』だけです。オリジナルアルバムは出さないんですか?

来夢:アルバムも全然狙えるかもしれない。いまつくっている「鬼」という作品からなんですけど、集中力が上がって曲と曲の関係がはっきりするようになったんですよ。これまでは全部のレコーディングに立ち会ってなくて。僕がストリングスとかも作っているので、時間がないんですよ。でもいまは朝型になって集中力も時間もあるし、全部できるようになって。「鬼」は結構やばいかもって自分でも思います。いまミックス段階で既にメンバーと想いを70%くらい共有できてるんじゃないかな。やっぱりコミュニケーションなんですよ。いつもそうだけど、曲に人生賭けています。ここはこれからも変わらないだろうな。メインで伝えたいと思っている新曲です。「豚」とかの生き物シリーズでもある(笑)。

──初耳のシリーズ名です(笑)。

来夢:他にもあったような、ないような(笑)。最近「鬼」って言葉を使うことが多いんですよ。つきまとってくるんですよ、人生的にも。自分が最大限に表現した鬼を込めています。

──「鬼を最大限に表現する」って、あんまり考えないですよね。

来夢:確かに(笑)。歌詞が出てからも説明しにくいかもしれないですけど、簡単な言葉は使っています。また一行だけでも好きになってもらえたら嬉しいですね。確実に最高傑作になりますよ。昔のバンドからサビの一行だけもってきてる部分もあります。6分の短編映画を作っているような気分かな。昔は「曲は短い方がいい」と言ってたんだけどな(笑)。

──記憶にあります(笑)。

来夢:今回の「鬼」が、キズで最長の曲かな。しかもバラードじゃないんですよ。明日ミックスが完成するんですけど、今回はいろんなひとに協力をしてもらっている。「自分にできないことや、自分が持っていない才能が必要な部分はお願いしよう」と考え直したんです。

──曲をつくるというと、自分がいまできる最大のものをつくるイメージでした。

来夢:変わりましたね。自分には収まりきらない曲だけど表現したかったから、歌い方を田澤さんに習いました。上手すぎて心が折れましたけど(笑)。急に細かく作り始めたから、メンバーも「本気出してきたぞ」って困ってますね(笑)。

──このインタビューが出る頃には、代々木のライブがもうすぐですね。

来夢:手を抜くわけでもないし、人生賭けている「鬼」を伝えにいくライブだけど、そんなに構えてもないかな。通過点でしかないですし。あー、今日も2時間くらいしゃべったか。あんまりMCで話さないけど、さらに話さなくなったらこのインタビューのせいですね(笑)。また3年後とかに話します。

──3年後など漠然とでも、未来の話をするのは珍しいですか?

来夢:そうかもですね。だって、いまは期待していいですからね。これまでは期待されることが嫌いでした。いろいろ理由をつけていましたけど、期待を超えられなくてがっかりされるのが嫌だっただけです。いまは期待してくれた分、もっと大きく返せます。キズを信じてくれる人には応え
ようと思っていますから。

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きょのすのドラムを全ドラマーに聞いてほしいです
歌が上手い先輩に心を折られました
後輩にバイクを全部あげました
ファンにライブで「ありがとう」と言えるようになりました

2時間を超えるインタビューには、誤解を解こうと自分で懸命に話す、孤立したようにも思えた6年前の以前の来夢はいなかった。メンバーはもちろんのこと、先輩や後輩、ファンの思いを嬉しそうに背負う来夢がいた。

「キズを信じてくれる人には応えようと思っている」と言い残した来夢。ロックバンドは期待や夢を食って成長する生き物なのかもしれない。

取材・文◎神谷敦彦
編集◎服部容子(BARKS)

15th SINGLE「鬼」

2024年5月13日 RELEASE
1. 鬼
発売元:DAMAGE

配信開始日
2024年5月13日(月)0時より
※各サービスの開始時間に誤差が出る場合があります。

<キズ 単独公演「星を踠く天邪鬼」>

2024年6月1日(土) 国立代々木競技場第二体育館
[開場 / 開演]16:00 / 17:00
SOLD OUT

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