『マッドマックス:フュリオサ』はアニメ映画として開発されていた!アニメーター・前田真宏に聞く、知られざる企画秘話

『マッドマックス:フュリオサ』はアニメ映画だったかも? - (C) 2024 Warner Bros.Ent. All Rights Reserved

映画『マッドマックス』シリーズ最新作『マッドマックス:フュリオサ』には、とある日本人アニメーターが「additional story contributor」として参加している。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』などで知られる前田真宏だ。前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)ではコンセプトアート&デザインを務めた前田がメールインタビューに応じ、『フュリオサ』の知られざる企画秘話や、実際に作品を観た感想を明かした。(文・構成:編集部・倉本拓弥)

株式会社カラー作画部所属の前田は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(監督、脚本協力、イメージボード、画コンテ、デザインワークス)や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(監督、コンセプトアートディレクター、画コンテ、美術設定、原画)、現在放送中のアニメ「怪獣8号」では怪獣デザイン・ディテールワークスを担当するなど精力的に活動している。年内には、前田のキャリアを網羅・記録した初の作品集 「雑 前田真宏 雑画集(仮)」(編集:株式会社カラー、発行:光文社)が発売予定。アーティストであり一人の人間である「前田真宏」を形成する個性を、時代背景・アニメ史、彼と共に時代を生きた方々の言葉から浮き彫りにし、前田と彼が関わった膨大な作品を振り返る。

『怒りのデス・ロード』と同時公開するはずだった並列企画

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Q:『マッドマックス:フュリオサ』のエンドクレジットには、「additional story contributor」として前田さんのお名前が入っております。

前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の開発と同時に、同時公開の並列企画として前日譚である『マッドマックス:フュリオサ』の企画、シナリオ、デザインを開発していました。

Q:『フュリオサ』はもともとアニメとして制作予定で、前田さんがコンセプトアートを描いたと、ジョージ・ミラー監督が証言しております。最終的に『フュリオサ』は実写映画になりましたが、監督とは当初どのような話し合いをしていたのでしょうか?

前日譚としてマックスの過去、フュリオサの過去それぞれを別のフォーマットで製作してそれが合流して『怒りのデス・ロード』になる。できる事なら同時上映、というプランでした。ミラーさんは日本のアニメに登場する「強いヒロイン像」を望んでおり、『フュリオサ』もアニメ映画として作りたい、という事でしたのでそれを前提にストーリーライン、キャラクター像、ストーリーボードや技術の開発などを進めていました。

ウェイストランドの世界観をより補強するために、人々がどのような営みで生きているのか。具体化するためにはどんなディティールが必要なのか。キャラクターの欲望、心情の動き、変化を掘り下げたり、様々な事を広範囲に、監督のミラーさん、プロデューサーのダグ(・ミッチェル)さん、脚本のニコ(・ラソウリス)さんたちと話し合いを重ねました。

特に『フュリオサ』に関しては、一人の少女が暴力の支配する男性原理世界に無理やり放り込まれて過酷な体験と共に成長する、という物語ですから、どのように、どこまで表現して良いのかはかなり話し合った点です。ミラーさんの娘さんにディスカッションに参加してもらった事もありました。また、ウォーボーイズという存在をどう捉えるのか。争いの中で大人達は必ず若者の純粋さを利用します。恐怖を与え、ドグマで縛り、名誉を錯覚させて利用する。アフリカの内戦における少年兵の存在を意識しながら考えていました。

ニコさんたちと作った脚本が、基本そのままだった事にも感動

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Q:『マッドマックス:フュリオサ』本編をご覧になっての感想を教えてください。

素晴らしかったです。これだけの内容を実写で表現するのは並大抵の事ではありません。ですが、やはり説得力が違います。実写映画として完成して本当に良かった。エンドロールを見ていただければわかりますが、本当にたくさんの人々の力で出来上がったのです。関わった全ての人たちに尊敬と感謝を送りたいです。

また、自分が関わってから10年以上のブランクがありますから、アップデートも必要なはずで、内容がすっかり変わってしまっていても仕方ないかなと思っていたのですが、ニコさんたちと作った脚本は基本そのままだった事にも感動しました。

Q:『怒りのデス・ロード』の精神を踏襲した『フュリオサ』のMADな世界観について、本編を鑑賞してどんな印象を受けましたか?

MADな世界、と言うなら私たちは狂った世界に住んでいるとしか言いようがありません。これは現実世界のカリカチュアです。暴力が支配し、争いが絶えない世界を3人の男たちが権力を握り合って支配している。登場人物全員が「自分の為」にしか行動しません。一見調子の良い事を嘯(うそぶ)くディメンタスにしても、リーダーぶっているだけで結局は強烈な利己主義者でしかない。「人間が人間を食べて生きている世界」なんです。その殺伐とした感じは前作よりもストレートに出してきたな、と思いました。この土台があるからこそ、フュリオサとジャックの利他的な関係の尊さが浮かび上がるな、と感じました。

Q:『怒りのデス・ロード』公開当時、再利用される可能性があるコンセプトアートがたくさんあるとお話されていましたが、『フュリオサ』で前田さんのデザインがどれくらい採用されていましたか?

フュリオサ自体のイメージもそうですが、デザインのアイディア、イメージボード、ストーリーボードからはいろいろ拾ってもらっていると感じました。

サプライズでプレゼントをもらったような気持ち

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Q:アニャ・テイラー=ジョイさんが演じた若き日のフュリオサの活躍はいかがでしたか?(前田さんが描いたフュリオサが描いた赤毛+長髪姿のコンセプトアートを体現したように思えました)

最初、トレーラーを拝見した時には「少女らしい雰囲気の印象的な役者さんだけど、ちょっと線が細いのではないだろうか……?」などと思っていました。すみません。心から反省しています。言葉に頼らない、体を張った演技、アクション。何よりその目力!! 素晴らしい「フュリオサ」でした。黙っていても存在感を放ち、内面を表現できる。フュリオサのキャラクターに不可欠な要素を見事に体現されていたと感じました。「赤い髪の女」というのは最初からミラーさんが持っていたイメージです。

Q:ちなみに、ミラー監督とは『怒りのデス・ロード』以降、連絡を取り合いましたか?『フュリオサ』を製作する際に意見を求められたりなどは?

特にありません。自分も忙しくしていましたし、もう終わった仕事だと考えていたので。それが突然作品として完成して本当にビックリです。サプライズでプレゼントをもらったような気持ちです。

「雑 前田真宏 雑画集(仮)」書影イメージ - (c)khara illustration by Mahiro Maeda

「雑 前田真宏 雑画集(仮)」は2024年内発売予定(価格:6,000円+税、編集:株式会社カラー、発行:光文社)

映画『マッドマックス:フュリオサ』は全国公開中

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