【6月2日付社説】選挙妨害事件/守るべきは政見訴える機会

 選挙は民意を代表する人を選ぶ貴重な機会だ。候補者が自由に主張を述べられるようにすることが不可欠との認識を、社会で広く共有する契機としたい。

 衆院東京15区補欠選挙(4月)で、無所属新人の陣営の街頭演説を妨害したとして、警視庁が公選法違反(自由妨害)の疑いで、政治団体「つばさの党」代表ら3人を逮捕した。元候補者や陣営が他陣営への選挙妨害を巡り逮捕されるのは極めて異例だ。

 逮捕容疑などによると、3人は街頭演説中、電話ボックスの上に座るなどしながら拡声器を使い、演説に重ねるように大音量で主張を訴えるなどして選挙活動を妨害した疑いが持たれている。3人は複数の他陣営の選挙カーを車で追尾しており、警視庁はこれらも自由妨害容疑に当たるとみて、立件を視野に捜査している。

 代表らは逮捕前、報道陣に対し「表現の自由の中で適法にやっている」「他の候補者がいる所での街宣を止める法律はない」などと述べていた。憲法や公選法で守られるべきは、全ての候補者が邪魔されることなく自身の主張を述べる権利だろう。表現や選挙の自由を持ち出して自身らの行為を正当であるとするのは筋違いだ。

 これらの妨害が疑われる行為により、他の陣営も被害を受けた。街頭演説の事前告知をやめる、会場を急きょ変えるなどの対応を取らざるを得なくなった。政見を聞く機会が制限された有権者こそ真の被害者だ。

 国会では公選法を改正し、妨害行為に対する罰則や規制の強化が必要との意見が出ている。ただ、規制が恣意(しい)的に運用されると政権批判のハードルが上がり、言論の萎縮につながると指摘する専門家の声もある。適正な論戦と妨害の線引きが難しいのは否めない。

 この団体は現在も補選時に撮影した動画の配信を続けているものの、摘発は模倣行為に対して一定の抑止効果はあるだろう。罰則や規制の強化は、必要性などについて、十分な議論が求められる。

 警視庁のこれまでの調べでは、容疑者の一人は動画の中で「広告収入が増えている。ビジネスにしたい」と話していた。過激な行為により動画の再生回数を増やし、サイトからの広告収入を得る狙いがあったとみられる。

 選挙を収益の手段にしようとする個人や団体が増えれば、選挙の健全性は大きく損なわれかねない。国はサイト運営企業に対して今回のような動画の扱いを含め、選挙関係の動画と広告の自主的なルール作りを促していくべきだ。

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