【インタビュー】ファイアーウインド「生き延びてこれて、とても良い状況にある。感謝しているよ」

比類なき技巧派ギタリスト、ガス・G率いるギリシャのファイアーウインドが13年ぶりとなる単独公演での来日を果たした。オジー・オズボーンのギタリストとしても活躍したガスは、いくつかのバンドを兼任していたが、ここのところファイアーウインドに専念しているようだ。

好評なニューアルバム『STAND UNITED』を中心としたセットながら、これまでの作品も網羅したベスト・オブ・ファイアーウインドなショウは、ハービーの圧倒的なメタルヴォイスがガスの良きパートナーとして見事に務め上げ、ペトロス・クリスト(B)とジョー(ヨハン)・ニュネス(Dr)も安定したリズムセクションでガスの正確で流麗なプレイをサポートしていた。

ガス・G
ダンスタイムとなったマイケル・センベロのカヴァー「Maniac」まで披露され、終始クリアなバンドサウンドが非常に心地良く、ライブバンドとしても再評価されたのではないだろうか。

メンバーは日本公演を終えた後に関西ではバケーションも楽しみ、再び東京でガスG(G)とハービー・ランガンス(Vo)のふたりがインタビューに応えてくれた。

──バケーションは楽しめました?

ガスG:京都はとても楽しかったよ、着物姿の女性も見られたしね。まだ行けていない猫カフェには今日行けるかな。

──ファイアーウインドとしては13年ぶりのジャパンツアー、素晴らしいショウでした。

ガスG、ハービー・ランガンス:ありがとう。

──過去の公演や<ラウドパーク>でも観ていますが、ベストだったと思います。ご自身ではいかがでしたか?

ハービー・ランガンス:そうだね、ニューアルバムのツアーは結構やってきていたけど、今回の日本公演はハイライトになったと思うよ。

ガスG:うん、それに前回の日本公演と比べても今回の方が良かったよね。

──ハービーの歌唱もライブの方が更に素晴らしくて驚きました。ご自身でも手応えありましたか?

ハービー・ランガンス:ありがとう。本来ならアルバムのレコーディングをする前にツアーで新曲をプレイして、感じを掴んでからレコーディングをした方がいいかなと思うところはあるんだ。でも今までファイアーウインドではそういう機会はなかったんだけど、それにしても手応えを凄く感じられたよ。

ガスG:僕たちはアルバムも良いんだけど、ライブでのエナジーがまた違うよねってお客さんにも言われるんだ。もしかするとアルバムよりも生々しくヘヴィになるんだろうね、それがいいのかなって思う。

──ステージパフォーマンスも存在感ありますね。これまでの経験はステージで活かせてますか?

ハービー・ランガンス:そうだね。もう30年もこの仕事をしていていつも自分で思っているのは、優れたシンガーでいなくてはならないのはもちろんだよね。でもそれより何よりもエンターテイナーでいなきゃいけないと思っているよ。ステージではお客さんを惹きつけて、コントロールして楽しませたい。シンガーとしてベストを尽くしてエンターテイナーとしての役割りにも拘りを持っているんだ。

──そしてガスのギターの音色はもちろんですが、ライブ全体の音作りも素晴らしかったですね。

ガスG:ありがとう。バンドとしては単純にアルバムの音を再現したいと思っているけど、当然スタジオとライブでは環境も違うし、同じにはいかないよね。音を出している源はバンドだからこの4人の音が良いバンドサウンドになったのと、PAのダニ(ダニG)が良い仕事をしてくれたよ。僕は特に「こういう音にして欲しい」というような指示は出していないし、ある程度は彼のミックスした音を聴いたりもするけど、基本的に彼には全幅の信頼を置いているんだ。

ハービー・ランガンス:ライブだとアドレナリンも出るし、よりアグレッシブによりパワフルな音になるんだよね。

──ひとつだけ気になったのは、ボブ(Key/カティオニス)の不在です。彼について訊いてもいいですか?

ガスG:ああ、ボブの件はゴメンネ、もちろんいいよ。

──彼はいつ離れたのですか?その理由も教えて下さい。

ガスG:2019年の終わり頃かな。僕自身、このバンドを続けて行く為には絶対に変化が必要だと思ったんだ。それは、ボブと前任シンガーを排除して再スタートを切らなければ絶対に無理だと考えた。だからまずそれを実行したよ。

──なぜ新キーボードプレイヤーを入れなかったのですか?

ガスG:うん、それには理由がふたつあって。ひとつ目は、あまりキーボードの音をもう入れたくなかった。もっとギター主体の音にしたかったんだ。初期のファイアーウインドがそうだったように、そっちに戻したかったんだ。ふたつ目は、4人組バンドにしたかった。じゃあ、キーボードが居ないなら別のバンド名にしようかとも考えたよ。でもやっぱり僕らの音はファイアーウインドだし、ある程度もう確立されたバンドだから結局ファイアーウインドという名前で4人で続ける事にしたんだよ。これはハービーや他のメンバーとも話し合って、それで5人目は必要ないという結論になった。

ハービー・ランガンス:ライブではキーボードのある曲はバッキングトラックで流しているじゃない?だからクリックを使っているけど、それによってバンド全体がタイトになったと思うんだよ。

ガスG:今のライブはとてもきっちり作り込まれているんだ。日本は違ったけど、欧州ではライティングのタイミングも全て決まっているしね。昔のファンにすれば、5人じゃないと思うかもしれないけど、音では負けていないよ。ライブではキーボードソロ部分をギターソロで弾いてもいるけど、考えてみたら全体の中で2、3箇所で八小節くらいのもんなんだ。だから何も問題ないし大差もない。

──そこからの前作のセルフタイトル『FIREWIND』だったんですね。このセルフタイトルはバンドの再生を意味していたと思います。

ガスG:そうなんだ。あのアルバムはこれが本当にバンドにとっての新しいスタートになるか、それともお終いになるかのどちらかだった。アルバムの曲はできていたけど、シンガーも辞めてもらっていたしね。幸い、ここからハービーが入ってくれて新しくスタートができた。「再スタートするなら今だ」と思った。わりと1stアルバムをセルフタイトルにするバンドは多いと思うけど、僕らはまだ使っていなかったから使えるなって(笑)。万が一、ダメだったら逆にラストアルバムでのセルフタイトルになってもいいかなって事も少し思ってたよ。

──実際はいかがでしたか?

ガスG:僕自身はとても手応えを感じていたし、もちろん全ての作品は良いものを作ろうと思ってやっているけど、中でもスペシャルに思う作品はあるし、逆に良いものを作ろうと思っても何かしらの要因で思ったような結果が出ないものもある。『FIREWIND』アルバムについては、とても良い作品になった。

ハービー・ランガンス:僕は単にガスが作った曲を歌うのではなく、曲作りのパートナーとしてこのバンドに迎えられたんだ。だから歌メロも作るしね。このバンドに入る時にガスに言われたのは、ファンが求める昔の曲も歌って欲しいこと。もうひとつは、ただ歌うだけではなくて一緒に曲の制作ができるパートナーが欲しいとね。それで初めてふたりで作ったのが「Devour」さ。

──では、今作のニューアルバム『STAND UNITED』に込められた思いも教えて下さい。

ガスG:バンドの結束だね。あとパンデミックがやっと終わってツアーができている事の喜びだよ。さっきの『FIREWIND』アルバムは手応えがあったにもかかわらず、ツアーができなかったからね。でも当初は別のタイトルだったんだよ。もう少し宗教的な大罪とか人間が犯した罪のような感じにしようと思っていたんだけど、パンデミックや戦争で全世界が分断されているからそんな世界をひとつにしたいし、より良い世界にしたいという気持ちと、バンドの結束と、ダブルミーニングなんだ。『STAND UNITED』ってシンプルだけどポジティブでしょ?実はこれデニス・ワード(多くのHM/HR作品を手掛けるプロデューサーであり著名なプレイヤー)のアイディアでもあるんだ。デニスとはハービーと3人で曲を作る事もあるし、歌メロのアイディアを出してくれる事もある。この時は、タイトル曲のサビの部分でデニスがアイディアを出してくれて、それを中心に曲が完成したんだ。

──今作もパワー・メタルだけではない、ハード・ロックとキャッチーなメロディがファイアーウインドらしいですよね。

ガスG:僕が思うファイアーウインドは、ヘヴィ・メタルではあるけど、ハード・ロックの要素もあるよね。1970年代、1980年代からの影響もあるし、ギタリストとしてはゲイリー・ムーアやマイケル・シェンカーが好きだしね。ジミ・ヘンドリックスはちょっと前過ぎるかもしれないけど(笑)。僕の音楽には間違いなくロックがあるよ。「Chains」あたりは1980年代の曲と言ってもおかしくないと思う。

ハービー・ランガンス:僕がこのファイアーウインドに入る決め手になったのは、あまりヘヴィ・メタル過ぎなかったからだよ。ファイアーウインドの何年か前からパワー・メタルばかりやっていて、もうそれが嫌になったんだ。だからシンブリードも辞めたんだよ。その点、ファイアーウインドはハード・ロックな要素もあるから気に入ってね。

──ゲイリー・ムーアがお好きなので、ブルース・ロックなものも今後やってみたいでしょうか?

ガスG:ファイアーウインドの音楽はもうでき上がっているし、このバンドでは難しいけど別のプロジェクトならいいな。君のストラトキャスターを貸してくれたらやるよ(笑)。

──喜んで(笑)。そして先人たちがどんどんフェアウェルになっていますが、このジャンルを継承する使命感はありますか?

ガスG:うん、そう思うよ。引退していくバンドは僕たちのヒーローなバンド達だ。でもそれは仕方のない事だし、いずれはそうなるし避けられない事だよね。だから、非公式な感じだけど責任感は感じているんだ。大好きな音楽だし、先人たちが作ってくれたものを自分たちが受け継いできたわけだし、それをずっと維持して行きたいよ。

ハービー・ランガンス:グレタ・ヴァン・フリードとか1970年代~1980年代な要素のある若いバンドも出てきたよね。彼らも後押ししてくれるだろうし、みんなでやっていきたいよね。

──これまでもメンバーチェンジや浮き沈みもあったと思います。それでも22年続けてこられて今、どう感じていますか?

ガスG:とても長いね、誇りに思うよ。たしかに22年は楽ではなかった。このバンドはもともとスタジオプロジェクトからバンドになったから、みんなの目に晒されながらバンドが成長していったところがある。最初にアメリカのレコード会社と契約した時、僕は20歳でまだバンドもなくて、そのレコード会社が知らないミュージシャン達を集めて最初の数枚を作ったんだよ。それがここまで来れたんだからね。その間に音楽業界も色々な変化があったし、もう居ないバンドもたくさんあるでしょ?そんな中で生き延びてこれて、今とても良い状況にある事に感謝しているし、頑張ってきた甲斐があるなと思うよ。

──今後、バンドで達成したいことや、やりたい事があれば教えて下さい。

ガスG:武道館でのコンサートだね。

ハービー・ランガンス:いいね。

ガスG:目標を大きく持つのは良い事じゃない?バンドとしても精神衛生的にも凄く健全だと思う。ポジティブな事を考えていると良い事がやってくる気がするんだよ。だから4~5年前からファイアーウインドの信条になっているんだ。

──武道館が実現するといいですね。

ガスG:みんな素晴らしい時間をありがとう。ライブに来てくれたり、SNSに投稿してくれたり、本当に楽しかったよ。この記事が出た時にもこれを読んでくれてありがとう、また会おう。

ハービー・ランガンス:日本のファンについては良い情報は聞いてはいたんだ。本当にその通りに素晴らしくて、ファンもマーケットとしても最高だよ。欧米は何でもいいからライブ行ってビール飲んで騒ごうみたいなところがあるけど、日本のファンは全身全霊を込めて来てくれていて、泣いてる子もいたんだ。それが本当に嬉しかったよ。

取材・文◎Sweeet Rock / Aki
写真◎Yuki Kuroyanagi

FIREWIND <STAND UNITED JAPAN TOUR 2024>

2024.5.15 Shibuya Club Quattro
1.Salvation Day
2.Stand United
3.World on Fire
4.Destination Forever
5.Destiny Is Calling
6.I Am the Anger
7.Orbitual Sunrise
8.Wars of Ages
9.The Fire and the Fury
10.Longing to Know You
11.Mercenary Man
12.Chains
13.Allegiance
14.Fallen Angel
15.Rising Fire
16.Maniac(Michael Sembello cover)
Encore
17.Ode to Leonidas
18.Head Up High
19.Falling to Pieces

© BARKS, Inc.