【ライブレポート】災い転じて福? ポジティヴな魅力を印象付けたテンペランス来日公演

さまざまな来日公演の盛況ぶりが伝わってきている昨今、コロナ禍の影響によるさまざまな規制によりライヴが本来の自由を失っていた時期が、もはや遠い過去のようにも感じられるほどだ。しかも、いわゆるビッグネームたちの公演ばかりが活況をみせているわけではなく、海外アーティストの公演がライヴハウス規模で行なわれ、コアなファンを歓喜させている例も少なくない。今回は、4月に目撃したテンペランスの来日公演について書き留めておきたい。すでに開催から1ヵ月以上が経過しているが、いろいろな意味でとても印象深いライヴだった。

今回のツアーはイタリアを本拠地とするテンペランスと、日本のPHANTOM EXCALIVERのダブル・ヘッドライナー形式によるもの。“聖剣”がPHANTOM EXCALIVERを象徴するキーワードのひとつであることはよく知られているはずだが、2023年10月にリリースされたテンペランスの最新作(通算第7作)、『エルミタージュ-開眼-』は日本の“達磨”をめぐる物語をコンセプトとする作品で、まさしく“Daruma”という曲で幕を開け、アルバム自体にも「DARUMA'S EYES PT.2」というサブタイトルが付けられている。

Mana Diagram

PHANTOM EXCALIVER
それが示唆しているように、彼らにとって達磨は目新しいテーマというわけではなく、2018年発表の4thアルバムには“Daruma's Eyes(part 1)”という楽曲が収められていた。そして、聖なる剣、達磨と切っても切れない関係にある両バンドの共演であることを示すように、今回の東阪ツアーには<聖なる達磨ツアー2024>というタイトルが掲げられていた。

東京公演は4月19日、渋谷club asiaにて行なわれ、この2組に加えてMana Diagramがオープニング・アクトとして花を添えた。そのMana Diagramは、元HAGANEのUYU(Vo)とMayto.(G)を擁する男女混成の5人組で、2023年12月に初ライヴを行なったばかりの新バンドではあるが、さすがに豊富な活動歴のあるメンバーが揃っているだけあり、すでに独自のバランス感覚によるスタイルを確立させつつあることがうかがえた。すでにコアなファンを獲得しており、早いうちから会場に詰め掛けていたオーディエンスを、タイトかつ華のあるライヴ・パフォーマンスで魅了していた。

続くPHANTOM EXCALIVERも、大いに場内を盛り上げた。昨年度の<Metal Battle Japan>で日本代表の栄冠を勝ち取り、由緒正しきドイツの巨大メタル・フェス<Wacken Open Air>の場で行なわれた世界大会でも堂々の優勝。そのうえこの8月にも同フェスへの出演が決定している彼らは、着実に活動領域を世界へと広げつつある。しかもそんな具合に状況が好転しているのみならず、ライヴ・バンドとしての説得力向上にも顕著なものがある。この日も代表曲の数々を惜しみなく連射しながら、ポジティヴな力に満ちたステージを披露し、その場の温度を高めることに成功していた。

そうした2組の熱演を経て、満を持してテンペランスが登場。実のところ今回の日本上陸は、バンド側にとってはやや不本意な形にならざるを得なかった。フロントマンであるミケーレ・グアイトリが他のツアー出演との兼ね合いにより来られなくなったのだ。その事実、そして彼の代役として最新アルバムにもゲスト・ヴォーカリストのひとりとして参加しているガブリエレ・コッツィが参加することについては、事前に招聘元からも公表されていた。とはいえこのバンドの最大の特色といえば男女混成のトリプル・ヴォーカルであるだけに、来場者の多くもミケーレの不在について少なからず不安をおぼえていたことだろう。

ただ、結論から言えば、過去にもサポート歴にあるガブリエレの貢献も光っていたし、彼とギター兼ヴォーカルのマルコ・パストリーノ、紅一点のクリスティン・スターキーとのコンビネーションも見事だった。いわゆるクリーン・ヴォーカル専任者と、シャウトやグロウルを担当するヴォーカリストが混在する編成のバンドは昨今まったくめずらしいものではないが、このバンドの場合はそうしたスタイルではなく、3人の歌い手すべてがメロディを豊かな声量で歌いあげ、しかもそれぞれに色調の異なった力強い歌唱を聴かせるのだ。そのさまは、まさしくロック・オペラ。過度に芝居がかったパフォーマンスが展開されるわけではないが、異なった歌声同士のブレンドや噛み合い方も見事で、片時もステージから目が離せなかった。

ただ、この夜の彼らは不運なアクシデントに見舞われた。ステージ進行途中、いわゆる同期音源を流すために用いられていたPCに不具合が生じてしまい、必然的に演奏を停止しなければならない場面が生じたのだ。しかも一度ならず二度までも。しかし、それでも会場内が静まり返ったりしなかったのは、ガブリエレがアカペラでEXTREMEやMR.BIGの楽曲を歌ったり、マルコがロック史上に残るさまざまなスタンダード曲のイントロを弾きながらガブリエルを誘ってみせたり、さらにはクリスティンも歌い始めたり、といった即興的なパフォーマンスとフレンドリーなお喋りにより、空白の時間が楽しげに塗り潰されたからだ。ことにガブリエレは、ミケーレの代役を務めるのみならず、そうした局面において場の熱をキープする役割まで果たすことになった。その意味では彼こそがこの夜のMVPだったといえるかもしれない。

結果、そうしたアクシデントの続発により、彼らは当初予定していた演奏プログラムの一部を割愛せねばならなくなったが、ドラマティックな楽曲と歌劇的な魅力、歌唱・演奏技術の高さのみならず、あくまで陽気で前向きなバンドのキャラクターをもオーディエンスに印象付けることになった。そうした激しくも楽しげな空気感こそが、この夜に同じステージに立った3バンドの共通項だったようにも思われる。そしてテンペランスには、いつか完全な体制で、アクシデントとは無縁の状態でのショウを東京のオーディエンスに披露して欲しいものだし、この先さらなる進化と飛躍を遂げることになるであろうPHANTOM EXCALIVERとMana Diagramの今後にも。大いに期待・注目したいところだ。

文・撮影◎増田勇一

◆テンペランス・オフィシャルサイト

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