河川改修はもはや治水だけじゃない…引堤で広がる河川敷、完了地区ではイベントやスポーツ大会開催も にぎわい創出へ高まる期待 薩摩川内市の川内川流域

川内川の整備で生まれた大小路地区の河川敷で開かれた屋台イベント=2023年7月、薩摩川内市大小路町

 一昔前までたびたび氾濫を繰り返していた1級河川・川内川で、国による抜本的な改修が進んでいる。このうち鹿児島県の薩摩川内市街部では、引堤と呼ばれる治水工事で川幅を次々と拡大。広大な河川敷が生み出される区域もあり、まちづくりにどう生かすか地元住民は知恵を絞る。

 5月下旬、同市天辰町の川内川左岸ではショベルカーが古い堤防を削り、トラックは土砂を運んでいた。その50メートルほど後方には新しい堤防ができている。

 この天辰第2地区(1.3キロ)では、既存堤防の外側に新堤防を造り、川幅を広げて流量を増やす国の引堤事業が行われている。長さ約137キロの川内川で、同市のみで実施。隣接する天辰第1(1キロ)や対岸の中郷(1.9キロ)、瀬口(1キロ)の各地区などで既に完了し、2024年度は上流の東郷地区でも着手することが決まった。

 国土交通省川内川河川事務所によると、川内川沿いの市街部では、1970年前後に水害で甚大な被害が相次いだのを機に河川改修に着手。第1次整備で川を掘り下げ、93年からの2次で引堤に取り組む。

 40年ほど前までは毎秒約4000立方メートルだった最大流量を、1.5倍に増やすのが目標。流域治水課の永谷恵一課長(46)は「これまでの改修で効果は確実に出ている」と強調する。

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 治水整備を終えた地区では、新たな河川敷を利活用する試みが広がっている。背景にあるのは、国が推進する「かわまちづくり」の施策だ。地元と連携して河川とまちの空間を融合させ、にぎわい創出を目指す。

 代表的な例が、右岸の大小路地区。2011~21年度、1.5キロの堤防を最大60メートル外側に造り、河川敷5万8000平方メートルを5億円かけて緑化や舗装した。併せて市が川沿いの道路やトイレも整えた。

 河川敷を管理するのは、民間を中心に地元9団体でつくる協議会。国から借りる市と協定を結び、23年4月から利用を受け付ける。初年度は子どものサッカーや屋台が集まるイベント、展示会などで55件の申請があり、幅広い世代の人が集う光景が見られた。

 協議会の本田親文会長(75)は「昔は大相撲やサーカスもあった。再び川から地域全体を盛り上げたい」と話す。課題もある。現在は利用者から料金を取らず、任意の協力金を依頼。整備作業は協議会のメンバーがボランティアで担う。持続的に管理運営をするために、安定して収益を得る仕組みを模索している。

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 今後生まれる河川敷には、地元住民が大きな期待を寄せる。引堤中の天辰第2地区では、25年度中に下流側の約3万5200平方メートルが使えるようになる予定。

 天辰を含む平佐西地区には22年3月、官民で活用策を考える協議会が発足した。これまでの会議で参加者から挙がった要望を踏まえ、国や市は芝と土の多目的スポーツ広場や、舗装したイベント広場などを計画。幅が最大100メートルと広く、地元は野球やグラウンドゴルフといった利用を想定する。

 今後整備が始まる上流側には市内最大規模の芝生広場ができる予定。市の管理となり、地元からはサッカー場や駐車場を期待する声がある。同地区コミュニティ協議会の平三章会長(72)は「地区内にこれだけの空間ができるのは初めてで夢が広がる」と笑顔を見せる。

 かつては人や物資の輸送に使われ、人々の生活と密接に関わってきた川内川。治水工事が進んで安心は増した一方で、人との距離は広がった。生まれ変わった河川空間を住民の満足と、外からの人の呼び込みにつなげられるかが、これからのまちの活性化の鍵になりそうだ。

薩摩川内市街の引堤事業を地図で確認する

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