電動キックボードの赤信号無視で“あわや”大事故 「それでも僕が悪いですか?」バイク運転者の疑問に弁護士の回答は…

赤信号を無視して交差点内に侵入した電動キックボードは“何事もなかったかのように”走り去った……(※画像はイメージです。あさり / PIXTA)

「信号無視のキックボードと衝突するところでした……」

ある日の夜、京都市に住む水野和樹さん(仮名・30歳)は250ccのスクーターを走らせていた。通り慣れた見通しのよい交差点を右折しようとした際、信号無視をした電動キックボードが交差点に進入してきたという。

「もしタイミング悪く電動キックボードと接触していれば、相手がケガを負う大事故になっていたかもしれません。もしそうなっていたら、僕(バイク側)にも過失が生じていたのでしょうか……」

利便性の良さからシェアが拡大している電動キックボード。昨年7月の改正道路交通法の施行により、要件を満たせば運転免許なしで誰でも乗れるようになった。観光客需要を狙い、自治体主導でレンタルサービスを導入する地域も増えている。

一方で問題となっているのが、ユーザーの交通マナーの悪さだ。免許を持たずとも利用できるため、そもそも交通ルールすら知らないのではと疑われる“悪質運転”をする電動キックボードの目撃情報等がSNS上に多く投稿されている。

もし電動キックボードとバイクが事故を起こしてしまった場合、どちらにどの程度過失や賠償責任が発生するのだろうか。事故に遭いかけた水野さんの疑問を、交通事故に詳しい弁護士に聞いた。

いまさら聞けない電動キックボードの交通ルール

まずは、電動キックボードに関する知識を整理しておこう。

現在、電動キックボードは、運転免許を必要とするものと、免許なしで利用できるものの2種類が存在する。

車体の大きさが長さ190センチメートル以下、幅60センチメートル以下で、時速20キロメートルを超えて加速することができない構造であるなど、一定の基準を満たす電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」に該当し、16歳以上であれば免許がなくても運転できるようになった。

都市部でよく見かけるようになったシェア電動キックボードの「LUUP」は、この特定小型原動機付自転車に当てはまるため、スマホさえあれば利用できるというわけだ。

しかし、当然だが、免許不要であったとしても、従わなくてはならない明確な交通ルールが存在する。電動キックボードは、原則として車道の左側を通行し、道路標識などにより通行を禁止されている道路は通れない。また、運転時は車両用の信号に従わなければならず、交差点での右折時は二段階右折するよう定められている。その他、運転中の携帯電話の使用や二人乗り、飲酒運転などは禁止され、違反した場合は反則金や罰金、懲役が科せられる。

いずれも運転免許所持者にとってはごく常識的なルールだが、免許を持たない電動キックボードユーザーの中には知らないか、ルールを遵守する気のない人もいるのだろう……。

電動キックボードとバイクの事故、過失割合は?

冒頭で紹介した水野さんの“事故未遂”は、片側三車線の道路で起きた。

交差点の右折レーンで待機していた水野さんは、信号が右折可になったのを確認して曲がろうとした。しかし、信号が赤であるはずの左側から交差点内に電動キックボードが進入。水野さんが急ブレーキを踏んだおかげで接触は免れたが、あわや衝突という事態だったという。しかし、相手方は何も気にせず風を切って走り去っていったそうだ。

事故未遂の状況(情報をもとに弁護士JP編集部作成)

交通事故が起きた場合、自動車やバイクなど“車両の大きいほうが悪い”といったイメージを持っている人もいるのではないだろうか。実際、接触事故になっていたら水野さんにも過失が問われたのだろうか。

交通事故に詳しい外口孝久弁護士は、最初に「以前は『大型車である』ということだけを理由に大型車に対して過失が不利に修正されるようなこともありましたが、現在は車両が大きいからであるとか、大きな自動車やバイクと小さい特定小型原動機付自転車の事故であるからといって、一概に自動車やバイクの過失割合が重くなるとはいえません。どちらの過失がより重いかは、事故の態様により決まるものです」と説明。

もし今回のケースで事故が起きていた場合は、「信号無視が事実であれば、まず間違いなく10:0で電動キックボードに過失が生じるでしょう」と話す。

電動キックボード横転したら“非接触”でも報告義務

その上で、外口弁護士は「もし今回のケースで、急ブレーキをかけるなどして電動キックボード側が横転してしまった場合は、たとえ“非接触”だとしても、バイク側にも事故の原因がある点で自損事故(単独事故)ではなく、バイク側にも警察への報告と救護の義務が生じると考えられます。なぜなら、道路交通法72条の定める救護措置義務・報告義務を負う者とは、当該交通事故の発生に関与した運転者であり、その事故の発生について故意又は過失のある運転者を意味するものではないと解されているからです」と解説する。

ちなみに、バイクに傷が付いてしまった場合は、過失割合は争点になりうるとしても、修理費用などは「当然請求できる」という。

「相手が『LUUP』のようなシェアサービスの電動キックボードの場合は、運営会社が保険に入っていると思うので、保険会社とのやり取りになると思います」(外口弁護士)

悪質な電動キックボードからバイク乗りが身を守る方法はある?

とはいえ、自動車と違いドライブレコーダーが残っていることがほとんどないバイクでは、電動キックボード側に過失があったとしても、その証明は難しい。その際に重要となるのが、防犯カメラの存在だ。

「道路に防犯カメラが設置されていれば、警察に確認してもらえます。防犯カメラがあると分かれば、民事上の賠償交渉において、弁護士側で映像を取得できるかもしれません」

しかし、どこにでも防犯カメラがある訳ではない。日常的に自動車を運転しているという外口弁護士自身も「すぐ近くで電動キックボードが走っていたら、可能な限り距離を取りますし、何なら別の道を行くことも考えます」と話すように、現状、自動車のドライバーやバイクユーザーは「周囲に気を配って運転する以外に自衛の策がない」(外口弁護士)ようだ。

今年の4月下旬には、酒を飲んでレンタル電動キックボードを運転したとして、京都府警刑事部に所属する40代の男性警部補が交通切符(赤切符)を交付された。京都府警は道交法違反(酒気帯び運転)の疑いで捜査しており、書類送検する方針を示している。

くしくも水野さんのケースと同じ京都での違反事例。本来電動キックボードの交通ルールを“取り締まる”側の警察官による違反にはあきれ返るが、免許不要という気軽さがルールを守らなければならないという緊張感を薄めている証拠とも言えるかもしれない。

「交通事故に対応する弁護士として、悪質な違反行為をする人には、電動キックボードの運転やシェアサービスの利用をやめてほしいです。そして、シェアサービスなどの運営側には悪質な違反行為をした人に対してはアカウント停止などの厳格な処置を行ってほしいと思っています」(外口弁護士)

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