仕事で悩む若者は適応障害なのか 【第2回】【実話】新任の秘書、部長に怒られ…過呼吸になり倒れて退職

第1章 それは適応障害なのか

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年寄りの感想もしくは愚痴

本書では若者と対比して年長者という言葉を選択しましたが、本当は年寄りにしたいと思っていました。しかしやはり語弊があるようです。相撲の世界では若年寄という地位があるくらいですからよい言葉だと思います。ここでは少しパロディとして、日頃なかなか口に出せない感想から、その違和感をあぶり出してみたいと思い、あえて年寄りという表現を使うことをお許しください。

あくまで年寄りは蔑称ではなく、これまである程度働いてきて物事も一定程度わかるようになり、実年齢ではなく、若者に(なんだかなー)と感じている人たちです。

現在のように若いことに価値があると思われていると、若者の状態やつらさに焦点が当たり、年寄りはそれを何とかする側としてしか登場しません。その(なんだかなー)という思いを口にすると「アウト!」と言われかねません。しかし年齢や考え方の違いはあっても同じく働いている人間であり、職業関係以上の義理はありません。

そうは言っても、この(なんだかなー)は理解し合える同僚同士の愚痴になります。そして相対的には年寄りの数のほうが多く、また職場的には権力があることが多いので、このような感想を表立って言ってはいけないという暗黙の了解があるかもしれません。

またイジメ対策の反動もあってか、少しでも否定的なことを言うと「悪口!」と言われます。しかしあえてこの隙間を取り上げてみたいと思います。“スキマ産業”的な話ですが、このコロナパンデミックで働き方や経済や社会が変わって行くのではないかと思われている昨今、これから働くことのガス抜きに少しでもなってくれればいいなと思います。

今回取り上げる、このような若者の状態は、30年くらい前からかもしれません。当時私は病院の医療福祉相談室に勤めていました。ある日看護部長から相談室に内線電話があり、新任の秘書が倒れたので来てほしいと言うのです。相談室に電話が来たのだから、心臓発作で倒れたわけではないでしょう。同僚の男性相談員に

「倒れたって…、部長がガーッて言って倒れちゃったんじゃないの? ほら、過呼吸ってやつじゃない?」

と話しつつ、やさしい彼はレスキューに向かいましたが、予想的中、いろいろ慰めたようですが、新任秘書はほどなく退職しました。

この頃から過呼吸症候群が言われるようになった気がします。それまでもガーッと言われてトイレで泣いている子に会うことはありました。

「大丈夫よ、元気出して、慣れればできるようになるし叱られなくなるわ。ああ見えていい人なんだから(いいも悪いも仕事ができてちょっと元気がいいだけなのだが……)」

と言いつつお菓子の一つもあげて帰したりしました。しかし倒れられると話は違ってきます。気持ちの問題ではなく、身体症状、精神症状の問題になります。ガーッと言われなくとも、仕事が期待通りできなくて叱られたり否定的な評価を受けたりした時に、泣いてリセットするのではなく身体症状、精神症状に出るということになります。

初めから若者が完璧に仕事ができるはずはありません。できない時は当然注意をし、指導をします。ただ現在は年寄りの発動のままではなく、気を遣わなければいけません。そのためどことなくうまく注意もできませんし伝わりにくい。何となく不協和音になります。

さて、年寄りの葛藤の内なるつぶやきをつづってみましょう。繰り返しますが、感想であり愚痴ですから悪意はありません。もちろんちゃんと仕事ができるようになる若者もたくさんいます。ただどちらにしても少し共通点はあるかなくらいの感想です。

言われたことしかやらない

質問しない

思っていることを言わない

人からどう見られているかに敏感である

必要以上に気を遣う

自分はわかっていると思っている

注意をすると不機嫌になる、もしくは注意内容を無視する

うまく行かないと物(PCやシステムなど)や他人のせいにする

すぐ怒る、もしくは不機嫌になる

助けてもらったのにお礼を言わない

まずいこと失礼なことをしても謝らない  など


※本記事は、2022年9月刊行の書籍『仕事で悩む若者は適応障害なのか』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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