発酵の妙(6月4日)

 落語の「酢豆腐」は暑い日が舞台。町内の若い衆が酒を飲もうと集まるが、つまみもお金もない。前日に買っておいた豆腐を肴[さかな]にしようとしたが腐っていた。評判が良くない知ったかぶりの若旦那を呼び出して、舶来品だとだまして口にさせる▼豆腐は発酵の力で珍味に生まれ変わる。沖縄料理の「豆腐よう」は泡盛や麴[こうじ]などに半年ほど漬け込んでできる。独特の香りに、ねっとりとした食感、ウニのような濃厚な味わいが特徴だ。琉[りゅう]球[きゅう]王朝時代は高級食品として、賓客へのおもてなしに振る舞われた▼南相馬市の漬物会社は西洋の発酵食品を代表するクリームチーズをみそ漬[づけ]にして、ヒット商品に育てた。最近では「クリームチーズのわさび粕[かす]漬」を売り出し、ファンを増やす。和食ならではの食材として外国人に人気の「わさび」に、みそと酒粕を加えた粕床を使う▼落語では豆腐を食し、悶[もん]絶[ぜつ]する若旦那の姿が笑いを誘う。見えを張って「おつな味」と言い張るが、もっといかがと勧められ「酢豆腐は一口に限る」と応えてサゲになる。発酵の妙を得た南相馬の新たな逸品は、食通をうならせる。見えも忘れてつい二口、三口というのが、令和版のサゲだろう。<2024.6・4>

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