“SE経験者”採用したのに全然仕事ができない…“試用期間満了”と同時の「解雇」 裁判所は認める?

英語の「2」や簡単な英単語までもインターネットで検索していたという(asaya / PIXTA)

システムエンジニアの経験者として採用したのに、全然できねーじゃん...

会社がそう叫んだであろう事件を解説する。(東京地裁 R5.7.28)

病院で起きた事件である。病院は、ある社員(以下「Xさん」)を経験者のSEとして採用したが、3か月の試用期間満了と同時に「能力不足」を理由に解雇した。

Xさんは解雇無効を求めて提訴したが、裁判所は「解雇OK」と判断。

試用期間はお試しのニュアンスがあるが、自由に解雇することはできない。しかし、後述するように、求められていた能力に明らかに達していなければ解雇がOKとなることがある。

以下、事件の詳細だ。

病院がSEを募集

社内SEの採用活動をしていた病院の応募資格には、「システム開発経験(目安2年以上)」と記載されていた。

その病院に応募したXさんは、職務経歴書に「現在、社内SEとして解析、基本設計、詳細設計などの業務を担当している」旨を記載。要は「こんな仕事できます」ということである。

そして面接の結果、採用が決定。Xさんは、管理部システム開発室に配属された。

解雇を通告

しかし、働き始めておよそ1か月半後、Xさんは解雇を通告される。理由は「能力不足」。病院はXさんに対して「3か月の試用期間が終了した後は本採用しない」と通告した。

■ 通告内容の要旨
貴殿は、2021年5月1日に当院に入職し、現在3か月の試用期間中であります。この度試用期間満了に際し慎重に検討しました結果、以下の理由により試用期間満了(2021年7月31日)後の本採用は見送ることになりましたので、ここに通知いたします。
1 業務に関する研修等を行ってきましたが、当院が求めるレベルに達する見込みがないと判断したため
2 採用選考時に提出いただいた職務経歴書に虚偽の申請があり信頼関係を築くのが難しいと判断したため

上司は、Xさんに対して「7月末まではJavaの課題を与えるなどして研修の形で勤務していただく」旨伝えた。

Xさんは納得できなかったのだろう。その日の夜、上司にメールで「これは事実上の解雇通知であると存じます。ついては本日(6月25日)を最終出社として、以後、7月31日までの給与を規定どおり支給していただきたいと思います」と伝えた。

無断欠勤

25日は金曜日だったため、Xさんは週が明けた6月28日に職場へ行ったが、業務を行うことなく、私物を持って退社しようとした。上司は「このまま帰ってしまうと無断欠勤になります」旨伝えたが、Xさんは構わず退社(そのまま7月17日まで、少なくとも15日間の無断欠勤を続けた)。

上司がプッシュメール

その2日後、上司がXさんにメール。「7月31日までは就労の義務があり、現在無断欠勤している状況となっています。欠勤なので、もちろんその分の給与は発生しません。出勤し辛い気持ちは理解できますが、ご自身のスキルアップのためにも残りの期間出勤することをお勧めしますがいかがでしょうか」という内容を送った。

これに対して、Xさんは「7月のシフトに関して文書での通知もないまま無断欠勤であると主張されることは承服いたしかねます」と返信した。

出勤停止処分

7月21日 会社はXさんを【7日間の出勤停止の懲戒処分】とした。

解雇

7月31日 会社は、試用期間が満了したと同時にXさんを解雇した。

その後、Xさんが提訴。「解雇は無効」「7日間の出勤停止処分も無効。賃金を支払うべき」と主張した。

裁判所の判断

弁護士JP編集部

結果は、Xさんの敗訴となった。裁判所は「解雇も出勤停止処分もOK」と判断。以下、順番に解説する。

解雇OK

裁判所は2つの理由をあげて解雇OKと判断した。

■ 解雇理由1(能力不足)
SEとして2年程度の経験に応じた職務能力を有していることを前提に採用されたにもかかわらず、その能力がなかった。

Xさんは、職務経歴書に「平成30年4月から令和3年3月まで社内SEとして勤務し、平成30年6月から開発経験がある」と記載し、面接時にもその旨説明していた。

どっこい、フタを開けてみると、数年のSE経験があれば難しくないはずの電卓アプリの作成ができず(入社後のある一定期間)、作成途中の基本的な英単語の誤りが多く、英語の「2」や簡単な英単語をインターネットで検索し、一定の経験があれば時間をかけずに作成できるお問い合わせアプリを作るのに「5日かかります」旨述べた。

■ 解雇理由2(事実に反する説明)
会社はXさんが現にSEとして稼働していたことを重視していた。しかし、Xさんは自己の経歴について故意に事実に反する説明をした。

Xさんは、令和2年12月4日から翌年3月まで精神疾患により休職していた。それにもかかわらず、職務経歴書にはその期間中も業務を担当していた旨記載されていた。

裁判所は上記2つの事実を認定し、「これらの解雇理由は、会社がXさんを採用した時に認識していたXさんの資質・能力などが適格性を有しなかったことを内容とするものであるから、本件解雇には、客観的に合理的な理由が存し、本件解雇は社会通念上相当である」と判断した。

これは、労働契約法16条に沿っている。解雇がOKとなるには非常にハードルが高いが、今回のように明らかに能力不足である場合には認められることがあるのだ。

出勤停止処分もOK

そして、無断欠勤を理由とした出勤停止処分もOKとなった。Xさんは「7月のシフトに関して文書での通知がなかった」旨反論したが、裁判所は「6月中にXさんに対して指定休日を告げていたから、文書で通知されていなくてもXさんは労働提供義務を免れない」と判断した。

ほかの裁判例

■ 解雇OK
試用期間中に解雇がOKとなった判例には以下がある。入社してソッコーで上司の業務命令を拒絶した事例だ。

「開発チームがうそつき」試用期間終了後に“即解雇”… さらに会社側が提訴に至った新入社員の“トンデモ”な振る舞いとは

■ 解雇ダメ
解雇ダメと判断されたものには以下の事件がある。転職活動をしていた人に対して社長が「ウチに来ないか?」「すぐウチに入社しなさい」とラブコールを送り入社に至ったものの、3か月後、「営業成績が振るわない」との理由で試用期間中に解雇された事件である。

社長ラブコールで転職も“成績不振”理由に「試用期間中」解雇は妥当? 裁判所の判断は…

最後に

今回は解雇がOKとなったが、試用期間中の解雇も、正式採用後の解雇と同じくハードルは高いことを強調しておく。「試用期間中は自由に解雇できるんでしょ」と勘違いしている経営者が少なからずいるが、往復ビンタものである。

言葉からすれば「お試し」というニュアンスがあるが、そう簡単には解雇できない。最高裁は「採用当初は知ることができずまたは知ることが期待できないような事実を、採用決定後の調査や観察によって知ることとなり、その者を引き続き雇用することが適当でない場合」のみ解雇できるとしており(三菱樹脂事件:最高裁 S48.12.1)、今回の事件もその枠組みに沿って判断されている。

Xさんの場合は中途採用だったが、新卒採用ではさらに解雇のハードルが高くなる。理由は、指導・教育を経て成長する可能性があるから。その点も押さえていただければ幸いである。

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