【千葉魂】細心注意学んだ原点 千葉ロッテ・小島、神宮の苦い思い出(421)

小島和哉投手

 強い雨が降る神宮球場で丁寧なピッチングを続けた。5月28日のスワローズ戦に先発した小島和哉投手は低めにボールを集めた。そして雨中だからこその予期できぬさまざまなアクシデントに細心の注意を払いながら投げた。水分を吸い込んだ不安定なマウンド。ぬれたボール。一つ一つに神経を集中して投じていった。

 小島には神宮球場での忘れられない苦い思い出がある。あれは早稲田大4年秋。自身がキャプテンを務めるチームは優勝争いを繰り広げていた。そして負ければ終わりながら優勝の可能性を残し、慶応大戦を迎えた。晴天のデーゲーム。グラウンドで整列を行い、ベンチに戻った時、思いもよらないアクシデントに見舞われた。

 ベンチ内にある小さな階段で足を滑らせ、右足首をひねったのだ。症状は捻挫。それでも「これはかすり傷みたいなものだと自分に言い聞かせて投げた」と痛みを押し殺しながら小島は先発をした。

 しかし結果は残酷だった。7回3失点で負け投手。大学最後のリーグ戦での優勝の夢はこのとき、ついえた。今も鮮明に記憶に残るつらい思い出だ。

 「とても大事な試合だった。本当に申し訳ない気持ち。整列して『お願いします』といって戻ったベンチの1段目の階段ですべった。神宮に来ると、真っ先にそのことを思い出します。だから、昨日、雨という事もあり、あの時のようにベンチで足を踏み外さないように。どんなトラブルが起こるかわからないのでいろいろなことに細心の注意を払ってプレーをしていました」と小島は振り返る。

 投げてベンチに戻るたびに、3段しかない階段を見つめた。人生は油断禁物。どこでどんな災いが待っているか分からない。だからこそどんな時もどんな状況でも目の前の一歩を大事にしながら丁寧に生きていかなくてはいけない。あの日、悔しさと引き換えにそのことを学んだ。小島は、その原点を思い返すように、自分に言い聞かせるように投げ終わってベンチに戻るたびにしっかりとした足取りで小さな階段を1段ずつ踏んだ。

 「ベンチの階段の小さな1歩すらも油断してはいけないということをあの試合で覚えました」と小島。ただ、それでも反省を忘れない。「雨でピッチングとしては難しかったですけど、なんとかストライク取れる球で組み立てることはできたかなあと思います。そしてリードした状態で試合を終えることができました。ただ、まだまだ自分は甘い。ボールがぬれているとかスパイクに泥がたまって、全然かめないなあ、嫌だなあとか雨を嫌がってしまった部分があった。雨とお友達になるぐらいにならないと。まだまだだと改めて思いました」と苦笑いを浮かべた。

 人にはいろいろな思い出がある。いいこともあれば、悪いこともある。ただ、大体、失敗した経験、つらい思いこそがその後の人生に役立ち、成長へとつながっていく。小島は思い出の詰まる神宮球場、2度目の先発でプロ初勝利を挙げた。それは大事な原点を思い出した勝利でもあった。強い雨はまた一つ、小島の思い出となった。

(千葉ロッテマリーンズ広報・梶原紀章)

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