衛生基準厳格化に「諦めたくなかった」 福島県いわき市の83歳女性が私財投じ漬物作り・販売継続

道の駅よつくら港で漬物を販売する赤塚さん

 食品衛生法の改正で1日から漬物の製造販売に保健所の許可が必要になった。高齢化や衛生基準の厳格化で漬物の手作りを諦める人もいる中、福島県いわき市の赤塚雅子さん(83)は私財を投じて基準を満たす設備を自宅に作り、許可を取得。原発事故で失った本業の代わりに始めた漬物作りが今の生きがいで、「諦めたくなかった」と話す。

 「これ、試食も食べてって」。いわき市沿岸部の道の駅よつくら港で赤塚さんが客に声をかける。毎週土日祝日は出入り口前に机を置き、手作りの漬物を並べて販売する。道の駅職員の新妻智子さん(62)は「雨でも風でも毎週必ず来てくれます」とそのひたむきさに舌を巻く。

 川内村で生まれ、板金業を営む夫との結婚を機にいわき市に移り住んだ。1989(平成元)年に原木シイタケ農家に転向し、最盛期には栽培用の「ほだ木」は1万本に上った。ただ、東京電力福島第1原発事故で、いわき市を含め県内で原木シイタケの出荷が制限された。現在、市内で制限はないが、当時は安全性や風評被害に不安が残り廃業せざるを得なかった。

 体力も衰える中で挑戦したのが漬物作りだった。最初は知人の見よう見まね、それから独自に漬ける時間や調味料を調整した。津波で全壊した道の駅よつくら港の仮設店舗時代から漬物の対面販売を始め、県外のリピーターもつくほどの名物になった。

 改正食品衛生法で漬物の製造販売に保健所の許可が必要だと知ったのは昨年。台所と別の調理場を設け、専用の流し台やレバー式蛇口などを整備する必要が出てきた。道の駅よつくら港によると、こうした設備投資が難しく手作り漬物の製造を諦めた人もいるという。

 ただ、赤塚さんは「今は漬物が生きがい。食べてくれる人のためにもやめらんねえ」と、誰も使っていなかった自宅の寝室を調理場に改装すると決意。スーパーに長年勤める三男の助言も受け、図面を持って何度も保健所に通って設備に問題がないか確認し、5月に念願の許可を受けた。

 ダイコンやニンジンを使った「たまり漬け」はニンニクとショウガが効いていて一押し。秋から冬にかけて高菜や野沢菜を漬けるのも良い。「次に何を漬けるか考えるのが楽しいし、お客さんと話すのが何よりも好き」。体が動く限り漬物を作り続けるつもりだ。

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