訪日外国人観光客激増で熱視線の『二重価格制度』とは トラブル、リスク…導入店舗に聞いたリアル実態

外国人に人気の高級海鮮料理 ※画像は豊洲 千客万来公式インスタグラム『@toyosu.senkyakubanrai』より

円安の影響もあり、増加する訪日外国人観光客。その数は右肩上がりで、今年4月に日本を訪れた訪日外国人観光客の数は304万2900人と3月に続いて300万人超え。現在、日本は外国人観光客であふれているのだ。そんなインバウンド商戦に活路を見出そうというのは小売・サービス業界。都内にある百貨店や高級ブランドショップを巡る「爆買いツアー」も人気だという。

「今年2月には東京の台所である豊洲市場に隣接する商業施設『豊洲 千客万来』がオープン。1杯5000円を超えるような価格で海鮮丼が売られていますが、外国人観光客が大挙して押し寄せています」(夕刊紙記者)

そんな中、小売業界関係者の間で注目を集めている価格制度があるという。

「『二重価格制度』と呼ばれるものです。これは訪日外国人と日本人や在留資格を持つ外国人との間で、支払い金額に差をつける制度のこと。訪日外国人の支払い価格を日本人より高くするのです」(前同)

これまであまり聞かなかった料金設定方法である二重価格制度。だが、弊サイトの取材に応じた小売・サービス業界に詳しい経営コンサルタントの岩崎剛幸氏によれば「目新しい取り組み」ではないという。

「訪日外国人観光客向けの二重価格とは異なりますが、実は小売・サービス業界ではすでに二重価格が導入されているんです。たとえば、全国で1300店舗ほどを展開するファミリーレストランの『ガスト』では、東京や大阪などの都市部と地方で商品価格を変えていますし、東京の山手線内は“超都心店”と位置づけ、価格を3段階で設定しています」(岩崎氏)

この価格設定の背景には都市部における賃料の上昇と人件費の高騰があるという。他にも学生を対象とした学割サービスや高齢者の利用料金が一般利用者よりも安くなるシルバー割など、巷には二重価格がすでに存在すると岩崎氏は指摘する。

「円安が進んだことで、日本を訪れる外国人の数は確かに増えました。しかし、サービス業界や飲食店の中には、外国人観光客の数は増えたけど、常連だった日本人客が減ったというお店も少なくないでしょう。また、訪日外国人客への対応は言葉の壁もあり店舗のスタッフにも負担がかかる。

サービスにかかる費用を回収するために二重価格を設定し、外国語対応ができるスタッフを雇ったり、外国語表記のメニュー表を用意したりするなど、新たな付加サービスを提供したいというお店も少なくないはずです」(前同)

外国人にとって一大観光スポットと化しているスクランブル交差点がある東京・渋谷では、外国人観光客の価格を在留者よりも高く設定した『二重価格制度』を導入した飲食店がある。今年4月、店舗オープンのタイミングで二重価格制度を導入したという『海鮮バイキング&浜焼きBBQ 玉手箱』でオーナーを務める米満尚悟さんに弊サイトは話を聞いた。

「イベント性もあるからか、浜焼きは外国人観光客の方にも人気です。ただ、店舗としては食べ方や焼き方をつきっきりで教えないといけない。

外国人観光客の中には馴染みのない食材であるサザエなんかは“肝”だけ食べて苦いからと捨ててしまう人もいます。それでは食品ロスにもつながりますし、そうしたお客さまに対応するためにスタッフの人件費もかかる。そうなるとやはり、観光客向けに金額を少し上げる必要がありました」

■『二重価格制度』の懸念点は――

訪日外国人観光客と在留者とで異なる価格設定を行なう『二重価格』。現在、この制度を導入する選出の東京・渋谷の『海鮮バイキング&浜焼きBBQ 玉手箱』では、平日のディナーが通常価格7678円(税込・以下同)。日本国内在住者は1100円引きの6578円で提供している。そこで気になるのが、来店客と会計時に金額を巡ってトラブルになることはないのか、ということだ。

「予約時の料金設定の段階から明記しているのでトラブルになることはないですね。牛串やマグロ串を4000円とか5000円で売っているというニュースも見ますが、そこまでしようとは思わないです。そうなると国内のお客さんは来られなくなってしまいますし。

金額を分けることで、来店する外国人観光客の方の数を調整できれば店舗やスタッフの負担も減って、お店の運営も行ないやすくなるかなというところです」(前出のオーナー米満さん)

では、訪日外国人観光客と在留外国人の区別はどのようにつけているのか。

「日本語がしゃべれるというのが1つの基準ではあります。そうするとバイキングのルール説明も楽ですし、スタッフにも負担がかかりません。もちろん、留学生でまだ日本語が不自由という人であっても在留者ですので在留者価格で提供しています。日本で頑張っているわけですし、あんまり運用基準を厳密に設けるのもいかがかなとも思いますし」(前同)

前出の小売・サービス業界に詳しい経営コンサルタントの岩崎氏が、訪日外国人観光客を対象とした二重価格制度を飲食店が導入する上でのリスクを話す。

「リスクは、“差別問題”と捉える方も出るかもしれない、ということ。また、二重価格を運用したいからと店舗スタッフが接客時に“日本人の方ですか? それとも外国人の方ですか?”と尋ねること自体がトラブルへと発展する危険もあります。

来店客と店舗スタッフが口論となった映像がSNSへとバラ撒かれれば、店としても大きなダメージです。また、マクドナルドやケンタッキーのように世界規模で事業展開を行なうチェーン店は、そもそも為替レートの違いから、同じメニューであっても国ごとの販売価格は異なります。わざわざ、二重価格制度の導入自体に踏み切らないでしょう」(岩崎氏)

一方で、サービス業の現場では二重価格の導入に踏み切りやすいのでは、と岩崎氏は言う。

「オーバーツーリズム問題の影響を受けやすい文化施設の入場料などは二重価格を導入しても良いのではないでしょうか。

地元の自然環境や文化を守るため、地域住民の生活を支えるためと説明すれば、周囲の納得も得やすい。二重価格を支払う側である、外国人が納得してお金を支払えるかが二重価格制度導入の成否をわけそうです」(前同)

訪日外国人観光客の数は右肩上がりだが、それに伴い対応スタッフの負担も急増中。サービスを提供する側にも、享受する側にも“嬉しい”価格設定が求められる。

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