【寄稿】「地域おこし協力隊」 地域に根づく人材を育む 川口幹子 

 最近、地域おこし協力隊との協働の在り方を模索する検討会に呼ばれて話す機会があった。制度発足から15年がたって、受け入れ可能自治体の77%が制度を活用しており、新規に採用する隊員も年間7千人程度と、成長を遂げている。
 任期を終えた隊員の65.4%がそのまま定住し、地域づくりの担い手として貢献している一方で、本県の定住率は54.8%と全国ワースト5に入っている。地域に根づく人材を育むにはどんな制度設計が望ましいのか、自治体の模索が続いている。
 非常に乱暴にまとめると、万人に通用する普遍的な制度設計はない、と思う。隊員のキャラクターに応じて柔軟に運用形態を変えられるような制度が望ましい。明確なテーマの下で具体的な業務を細かに指示してもらった方が動きやすい人もいれば、逆に野放しにしてくれた方が本領を発揮できる人もいる。重要なのは、その個性を見極め、業務の与え方や勤務形態を人によって変えられる柔軟性だ。
 人によっては協力隊としての勤務日数や時間を縮めて、業務外でさまざまなアルバイトを渡り歩く中で人脈をつくれるかもしれない。三セク等の新規プロジェクトを支援するような形で「指示を出す上司」を行政の外においてもいいかもしれない。独立マインドが強い人は、早くから起業させてしまう手もある。
 自治体に求められるサポートは何か。私は「人と場に繋ぐこと」だと思っている。起業や就職にとって最も重要な資源は人脈だ。人脈がなければ活動のアイデアも浮かばない。地縁も血縁もない地域に飛び込んできた隊員にとって、自治体職員が間に入って顔を繋いでくれることほど心強いことはない。
 民間を巻き込んだ協力隊の活用も検討してほしい。協力隊を活用するプロジェクトを民間から募集し、提案されたプロジェクトが地域振興につながると判断されれば、そこに協力隊を充てていく。新規事業の一番のハードルは立ち上げ時の調査と計画づくりである。その投資を回収するまでのランニングコストが、資本力のない地域の民間事業者にとっては、思い切った新規事業ができない足かせになる。そこに協力隊制度を使うのだ。プロジェクトの成功は任期終了後の就職先確保につながるから、協力隊員も出口を見据えた活動ができる。
 地域で生きる選択をした若者にとって、最初の3年間、一定の給与をもらいながら人脈形成ができる協力隊制度は非常にありがたい仕組みである。模索を続けながらも長く続く制度であってほしいと願う。

 【略歴】かわぐち・もとこ 1979年青森県出身。地域おこし協力隊員として対馬市に移住。一般社団法人対馬里山繋営塾代表理事。対馬グリーン・ブルーツーリズム協会事務局長。農村交流や環境教育に取り組む。北海道大大学院環境科学院博士後期課程修了。

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