【新宿LOFT歌舞伎町移転25周年記念インタビュー】安部コウセイ(SPARTA LOCALS / HINTO)- バンドに軸足を置きながらも、丸腰で覚束ないと自覚するソロとして唄い続ける理由

ソロはバンドとは違う達成感があるし、言葉も強く伝わる

──ソロライブは、久しぶりになるのですか?

安部:やっぱりバンドが軸としてあるので、ソロをやる場合は内容が充実したものをやりたい。だから、ソロのライブ数は厳選した感じですね。久しぶりといえば、そうなるけれどペースとしてはマイペースにやっています。

──コロナ禍での音楽活動は、安部さんにとってどのような期間でしたか?

安部:音楽業界の人たちも、みんな死にそうになっていたし、コロナ禍って、めっちゃストレスだった。ライブでもみんな声出しができるようになって、やっとコロナが終結したっていう感覚がある。でも少しずつお客さんが戻ってきているなって思うけれど、やっぱり一度離れていった人たちがまだ戻ってきていない。僕たちのファン層って、家庭とかあったりするからね。3年間ほどライブを観に行かない生活に慣れちゃうと、ライブハウスに行くこと自体から離れてしまっている。だからもう一回、そういうお客さんに見に来てほしいなっていうのが、最近の意気込みです。

──では、今はライブを精力的にやりたいと思っていますか?

安部:いや、最初はずっとやりたくね~って思っていたんですよ。

──ライブをですか?

安部:いや、ソロライブを。本当に一人でやれるのか自信もなかったし。でもやってみたらめちゃくちゃプラスになったんですよ。バンドってやっぱりみんなが支えあったり、フォローして、僕以外にもステージに一緒に戦う人間が存在していること自体がメリットというか。バンド自体が武器みたいなので。それがソロだと、何もなくて丸腰の状態で立っているから不安感みたいなのが毎回ありますね。だからそれを乗り越えた時に、バンドとは違う達成感があります。

──バンドはビートがある分、グルーヴ感も出ますよね。

安部:ソロの場合は、歌って感じ。でもバンドの時は、声が楽器的要素なのもあるかも。だから、ソロのほうが言葉も強く伝わる。バンドとはそういう違いはあるけれど、やっぱりメンタルの部分が一番大きく変わっている。

──ステージにも一人ですからね。

安部:みんなこっちを見ているな~って視線を感じますね(笑)。バンドのほうが、お客さんの視線が散るんですけれど。伊東真一(ギター / SPARTA LOCALS・HINTO)がもう獅子舞のように頭を振るので、みんなそれに気を取られるので楽なのですけれどね(笑)。ソロの場合は、みんなが本当にこっちを見ているので、心の中では「見るな、見るなー」って思っています。

──セトリは安部さんが決めているのですか?

安部:ソロもバンドも俺が決めている。最近は、その時の気分であまりかっちりとセトリが決まっていないほうが良いかなって思っていて。ソロの場合は、演奏する曲だけ決めておいて、その場で選んでいる。

──安部さんの中で、バンドとソロの大きな違いって何でしょうか。

安部:ソロってリズムを自分で作れちゃうんですよ。原曲よりもすごくゆっくりしたりとかできるわけです。でもバンドは、ドラムスが出しているビートに合わせていかなきゃならない。ソロは自分がルールなので、どんどんそういう決まりを崩していったりとか。途中で唄うのとかやめちゃったりとかね(笑)。「ここ、間奏長いな」って思ったら端折ったりとか。ソロは、そういう決まりごとが少なければ少ないほど、最近は良いなって感じているので自分の中でルールを決めすぎずにやっています。

──今回、『邂逅』に出演する橋本さんや中村さんと対バンされたことはありますか?

安部:Helsinki Lambda Clubはあるけれど、中村さんは初めてですね。中村さんとは、ブッキングの担当に、ずっと一緒にやりたいって伝えていたんです。

──中村さんとは接点はあったのですか?

安部:中村さんの音楽は、聴いていました。『100s』というアルバムの中で「セブンスター」っていう曲があって、「クソにクソを塗るような」って歌詞があるんです。それを聴いて、「この人、だいぶ怒っているな」と思いましたね。最初は暗い感じの人見知りタイプかなって思った。それが、挨拶をさせてもらったら、めちゃくちゃ明るい人だったんですよ(笑)。だからもう、訳がわからなくなりましたね。

──中村さんは、伊東さんと出演されるのですよね。

安部:そうそう! 中村さんのサポートで伊東がギターを弾くんですよ。なかなかカオティックな状況ですよね。中村さん側に伊東真一がいるって(笑)。そういう恩知らずなところがあるので、伊東真一を叩き潰さなきゃなって思っていますね。

──橋本さんのHelsinki Lambda Clubは、安部さんから見てどのような印象を抱いていますか。

安部:同郷だからってシンパシーとか覚えるタイプではないけれど、凄く良い音楽をやっているって思っています。今、結構人気者になっているけれど、全然人気がない頃から知っていたし。インディペンデントに近い雰囲気を持ちながら、工夫を凝らして頑張って下積みを積んでいるのが今っぽい。尊敬っていうと、逆に媚びているみたいなのだけれど(笑)、良いバンドだって思いますね。

盟友・伊東真一とは言語化できない領域の感覚が似ている

──伊東真一さんとのユニット、堕落モーションFOLK2とソロとはどのような違いがありますか?

安部:堕落モーションFOLK2は、ラフに見えて作品っぽいというか、プロジェクト感があるんですよ。衣装も黒い服を着てやっているし、楽曲も頑張らないつもりで始めたのに頑張っちゃっているので(笑)。かなりコンセプチュアルなユニットだから、やっていて一番疲れます。

──バンドとどっちが大変ですか?

安部:バンドよりも、精神的な部分で疲れますね。リズム隊がいないので、二人で呼吸を合わせて演奏するのがとっても難しい。ライブだと、ドラムという指針もないですから、お互いの呼吸もすごく集中しないといけないので、とっても疲れますね。でも、伊東真一という人がいるので、視線が散るのは楽ですね(笑)。

──安部さんの中で、伊東さんってどのような存在ですか?

安部:真君という人がどういう人間か、ですか。それはお互いに俺の歌は真君のギターが一番いいし、真君にとっても俺とやるのが一番いいんですよ。

──なるほど。

安部:性格も違いますし、価値観も違うところある。でも、「これが一番かっこよいね」みたいな美意識が合う。言語化できない領域の感覚が、似ているのです。そこがお互いの魅力を引き出しているのだと思う。

──ソロだと、伊東さんがいない不自由さを感じたりはされますか?

安部:ソロは伊東真一に一番、感謝する瞬間じゃないすか(笑)。それ以外は、あんまり感謝しないですけど。ソロの時は、「伊東真一という存在は助かるね」って思いますよ。

──会場である新宿ロフトに対しての憧れってありましたか?

安部:僕らの世代にとっては、シェルターとロフトは聖地でしたよ。敷居バリ高っみたいに感じて、緊張しました。
最初はシェルターでのfOUL主催の『砂上の楼閣』(2002年5月26日『砂上の楼閣21~スパルタクスの反乱~』)じゃないですかね。明確に覚えていますね。まだ福岡にいた頃に、まだお客さんもゼロに近かったのに、坂本商店(eastern youthが立ち上げたレーベルで、fOULも所属していた)に手紙を出したんです。なんか熱い気持ちを書いたんですよ(笑)。「対バンさせてください」って。そうしたら、fOULが福岡にライブで来た時に、前座で出してくれたのです。

──良いエピソードですね。

安部:いやわかんない、妄想かも(笑)。でも、そんな記憶がありますって感じ。

──新宿ロフトには、2002年9月12日の『LOFT POWER PUSH!』に、ザ・コブラツイスターズや、PICK2HANDと出演されたのが初めてみたいですね。

安部:その時はまだ福岡にいたので、新宿まで車で行ったのです。歌舞伎町に緊張しまくって、「新宿怖ぇ……」って思った。

──会場の周りも、独特の雰囲気がありますからね。

安部:ロフトの思い出でいうと、銀杏BOYZがロフトに出ていた日があった。彼らがスパルタの曲をライブのBGMで掛けてくれているっていうのを、人から聞いていた。それを知って、俺、嬉しくなっちゃって、「よし、峯田君に会いに行こう!」って思って、ライブ後に出待ちしに行ったんです。そうしたら、峯田君がめちゃくちゃファンに囲まれていて、神対応していた。それをかき分けて行って、峯田君のところまで行って、「初めまして、スパルタローカルズの安部です」って挨拶をした。そこで「音源掛けてくれたみたいで嬉しいです」って伝えたら、それがきっかけで対バンが決まったこともあったんです。

──銀杏BOYZやヘルシンキのように、世代の違う音楽もよく聴かれるのですか?

安部:いや、全然知らないかも。俺、人の音楽を元々聴かないし。あ、でも最近、藤井風を聴きましたよ。彼はめっちゃ才能ありますね(笑)。

──それでいうと、藤井風さんはサブスクリプションを利用した音楽配信サービスや、YouTubeからきっかけにブレイクされています。ライブハウスという生の空間ではなく、配信を中心とした音楽活動について、安部さんが思うことってありますか?

安部:俺、そこら辺のやり方を感じられていないのかも。そんなに変わってきているんですか?

──自分より下の世代と話していると、「ライブハウスが怖い」というふうに言われたこともありますね…。

安部:やっぱライブハウスは怖いですよ! ロフトもめっちゃ怖いところですから、まじめな人は来ないほうが良いですよ(笑)。

──そうやって、音楽の聴かれ方も変わっていくのかもしれないですね。

安部:俺は、どんどん変わればいいと思いますよ。多分、古い考え方ややり方って淘汰されていく。それでいいって思うし、流れに無理してくっついていこうとも思えない。俺個人で言うと、ライブはやっぱり楽しいからね。レコーディングはあまり好きじゃない。

──レコーディングのどういう部分が、好きじゃないのですか?

安部:レコーディングって、面倒くさいんですよ。スタジオにお客さんもいないし。昔から言っていますけれど、ライブをそのまま録音して出してくれたらいいのになって思う。

──スパルタは前作『underground』(2019年リリース)から、5年経っていますね。

安部:レコーディングはね、本当にしなきゃならないのだけれど……(苦笑)。メンバーからもスタッフからも言われているからね。もう俺の中で、日々座禅をしながら、曲作りに気持ちを集中しています。

ライブは苦しいけど一番刺激的だからやめられない

──最近は、リリースがない間もアーティストもSNSなどで近況を発信されたりしていますが、安部さん自身はSNSなどに興味はありますか。

安部:俺自身は何が良いのかはわかんないっすね。何か情報が少ないほうが貴重な感じがしません? 一つ一つの情報が貴重になるし、「やっと見つけた!」っていう喜びもある。一生懸命探して掘っていく行為が、能動的なことに繋がっていくって思う。だから、SNSみたいなのに何でも情報が流れていくのって、俺個人としては豊かには感じないですね。

──では情報過多の中で、ライブならではの魅力って何でしょうか?

安部:ライブって、ほかの情報がたくさん飽和していても、ライブだけは特別な空間なのですよ。ライブは瞬間でしかないし、同じことを繰り返せない。たとえ、同じ曲を演奏しても、全く違う気分になれる。昔と変わらず、そこだけは一貫しているんですよ。価値として薄まらないし、一番、刺激的だと思いますね。だからライブをやめられない。

──ライブはレコーディングと違って、楽しいのですか。

安部:いや、でもライブも面倒くさいんですよ(笑)。でもやった後は、「今日の一生懸命をやりきったぞ」って満足できる。

──ライブもレコーディングも面倒なのですか!(笑)

安部:さっき若い子たちの中で、ライブハウスに対して怖いっていうイメージがあるって聞いて、ネガティブなイメージはしなかったんですよ。むしろいいじゃんって思った。80年代の危険なイメージだったライブハウスから、うちら世代からは、安全な場所っていう雰囲気になっていた。それって、あまり良くない気がしていた。ライブハウスって、カルチャーを発信する場所じゃないですか。そういうところって、やっぱり危なっかしい部分があったほうが良いと思う。安全だと、退屈ですよ。

──そうですね。ライブハウスならではの魅力ってありますよね。

安部:だからね、集まってきますよ、若者は。だって危ないところが好きだから。未来は明るい。

──ソロとバンドでは、安部さんにとってライブの面白さは変わってきますか?

安部:いやあ、ライブはどれもあんまり変わらないですね。ライブは基本、苦しいからな。「ライブは楽しい」って、口では言うけれどリップサービスみたいなもので。でも、基本は苦しいですよ。

──でも、そんな苦行がなぜ続いているのですかね……?

安部:一番、向いているのではないですかね。苦しさの中でも、耐えられるタイプっていうか。

──そういう意味では、さきほどおっしゃっていたレコーディングが面倒くさいっていうのは別の苦しみなのでしょうか。

安部:そうですね。それは産みの苦しさですね。もう新しいものは産みたくないですね(笑)。今ある曲だけずっと演奏していて、お客さんが増えればいいですけど。これまでも、いっぱい曲を作りましたからね(笑)。でも、周りからもアルバムを出してほしいって求められているのは、ひしひしと伝わってきています。ライブは、バーン! ってやったら終わりじゃないですか。レコーディングは作業が長いのですよね。それこそ絵を描くほうが楽ですよ。

──たとえば、どういう部分が大変なのですか?

安部:レコーディングって、強い瞬発力みたいなものが一番出しにくい作業だと思うのです。バンドのメンバーがそれぞれこうしたいという気持ちを汲みとったり、まとめたりする役が俺だったりするので。まずいろいろな制約があるから、できることとできないことを考える。そもそも、そういう面倒なことをやりたくなくて音楽を始めたのに。だから、すごく矛盾するのですよ(笑)。

──レコーディングが大変な作業だというのは、伝わってきました。

安部:何が言いたいかって言うと、……作ります!

──新曲をですか?

安部:はい。新曲を作ります。

──安部さんにとって、やっぱり音楽ってなくてはならないものですか?

安部:いや。お金が降ってくればいいけど。お金が降ってきたら、音楽やめますよ(笑)。

──では、音楽を続けてもらうために、お金が振ってこないようにしないといけないですね…。

安部:俺のことを、ちゃんとした人間として認めてくれるのなら、全然やめる。俺、ぼーっとしているのが苦じゃないので(笑)。俺と社会をギリ繋いでくれるのが音楽だったっていう話ですよ。みんな、この苦しみなら耐えられるっていう仕事を選んでいるんでしょ。それが、俺は音楽だったっていう。

──では、最後に一言お願いします。

安部:やっぱりライブハウスは危険ですからね。不良たちが集まる場所なので、気をつけて来てください(笑)。

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