先端技術の海外流出防げ 群馬県警が「情報戦略室」を新設 宇宙関連企業などの移転や工場新設に対応

信越半導体磯部工場で講話する木沢室長=4月、安中市磯部

 企業や研究所の先端技術が海外へ持ち出されるのを防ぐ経済安全保障や「対日有害活動」=ズーム=に関する捜査と啓発を進めるとして、群馬県警は警備部外事課に今春、情報戦略室を新設した。地元企業に加え、宇宙関連機器メーカーなどが続々と群馬県への本社移転や工場新設を決めており、軍事に転用できる技術が標的になり得る。スケールの大きいテーマではあるが、一地方の内陸県でも無関係ではないという。

=ズーム=対日有害活動 警備警察の用語。2023年版の警察白書では、中国が日本で目的を偽った情報収集や防衛関連企業への人材派遣、政官財への働き掛けをしているとみられると指摘。北朝鮮とロシアも日本で工作活動を行っているとみられると言及した。

 「半導体は今一番のターゲット。技術が流出すれば企業にも国家にも損失です」。4月下旬、半導体の材料を研究・製造する安中市の信越半導体磯部工場の従業員50人を前に、県警情報戦略室長の木沢孝之警視が懇々と訴えた。

 共同開発や人材交流を通じた機密情報の持ち出し、国外へ情報を送る機能が隠された外国製機器、サイバー攻撃―。木沢室長は脅威の具体例を並べた。異変に気付いたら「評判を気にして隠すより、すぐに対処した方が企業イメージを守れる。警察は捜査だけでなく助言もできる」と、積極的な相談を呼びかけた。

 石崎良一工場長は「リスクは高まっている」と実感を込める。不審なメールを開かないなどしているが「情報管理を常に見直し、社員が私的な時間に誰かに接触されても問題ないようにしたい」とした。

 同月には、同社の親会社で半導体材料の国内最大手、信越化学工業(東京)が伊勢崎市への工場新設を発表した。宇宙関連機器メーカーのIHIエアロスペースは東京から富岡市へ本社を移転した。災害の少なさなどを理由に、他にも有力企業が集まっている。

 木沢室長は「規模の大小を問わず、本県には先端的な技術や情報を持つ企業が多い。不審なメールやヘッドハンティングの動きが実際に確認されている」と説明する。企業訪問やセミナーを充実させ、世間の関心を高めたいとした。

県警 「捜査、適切に」

 流動化する国際社会で自国の産業と生活を守ろうと、政府は技術や物資、特許に関する規制を強化している。一方、輸出規制を巡る取り締まりの危うさを露呈する事態も起きた。

 軍事転用できる技術を中国などに不正に輸出したとして、警視庁は2020年に大川原化工機(横浜市)の社長らを逮捕したが、東京地検は21年に起訴を取り消した。同庁捜査員は後の民事訴訟で「捏造(ねつぞう)だった」と言明した。

 情報戦略室を設け、この分野に注力する群馬県警は「この事件についてコメントする立場にない。捜査は法と具体的事実に基づいて適切に行う」としている。

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