スピードだけじゃない「タフなスタミナ」を持ち併せたロマンチックウォリアー。陣営が18年ぶりの“確勝”を見込んだ日本遠征は最高の結果に【安田記念】

6月2日、春のマイル王決定戦が行なわれ、香港から参戦した単勝1番人気のロマンチックウォリアー(せん6歳/C.シャム厩舎)が馬群から抜け出し、外から急襲した4番人気のナミュール(牝5歳/栗東・高野友和厩舎)、2番人気のソウルラッシュ(牡6歳/栗東・池江泰寿厩舎)を抑えて快勝した。これでGⅠレース5連勝(通算7勝)とし、香港馬としては、2006年のブリッシュラック以来18年ぶり、史上4頭目の優勝を飾った。

4着に5番人気のガイアフォース(牡5歳/栗東・杉山晴紀厩舎)、5着には3番人気のセリフォス(牡5歳/栗東・中内田充正厩舎)が入り、単勝1~5番人気が上位を占める堅い結果となった。

かつて、日本の関係者を震え上がらせた「短距離王国」と称される香港からの刺客が、そのポテンシャルをフルに発揮して、久々に日本馬をねじ伏せた。

週中にも相当量の降雨があったが、前日から断続的に降った弱い雨が府中の馬場を湿らせたため、当日の芝コースの馬場状態は「稍重」。第9レース、2勝馬の特別戦(芝2000m)の走破タイムが1分58秒7と、やはり時計がかかる馬場状態になっていた。マイルを制するスピードはもちろん、そのスピードの持続力も必要となるタフなコンディションである。
レースはドーブネ(牡5歳/栗東・武幸四郎厩舎)が先手を取り、ウインカーネリアン(牡7歳/美浦・鹿戸雄一厩舎)がそれに続いた今年の安田記念。ロマンチックウォリアーとヴォイッジバブル(せん6歳/P.イウ厩舎)の2頭は6~7番手と前目に位置を確保して流れに乗り、その直後をガイアフォースが追走。ソウルラッシュは中団の後方10番手付近を進み、末脚自慢のナミュールは13番手に控えて、勝負の刻(とき)を待った。

1000mの通過ラップは58秒4と、稍重の馬場状態を考えるとやや速めの平均ペースでレースは進み、後続も前との差を詰めて、馬群は横に広がりながら直線へ向いた。

注目のロマンチックウォリアーは5番手付近まで押し上げたが、そこは周囲を囲まれた馬群の真っ只中。外からは横山典弘騎乗のステラヴェローチェ(牡6歳/栗東・須貝尚介厩舎)にフタをされて、持ち出すスペースが見当たらないピンチに見舞われていた。

しかし、そのフタに僅かな隙ができた瞬間、ロマンチックウォリアーは鞍上に導かれて、馬体をそのスペースへ滑り込ませると一気にスパート。内の馬群を置き去りにして先頭に躍り出るが、外に進路をとって併せ馬のような格好で追い込んできたのが、ナミュールとソウルラッシュ。強烈な決め手を持つ2頭の急襲に観客は沸いたが、ロマンチックウォリアーは実に粘り強く末脚を伸ばし、ナミュールを半馬身抑えて優勝。ジェームズ・マクドナルド騎手は高々と右手をスタンド方向に突き上げて喜びを表わした。 ロマンチックウォリアーは、昨秋のコックスプレート(豪G1)からスタートしたGⅠ連勝記録を「5」に伸ばしたわけだが、距離が2000m以上(コックスプレートのみ2040m)で、本来は中距離馬だと断じるものも少なくなかった。しかし、香港には長くマイル戦線に君臨する王者ゴールデンシックスティ(せん9歳)がいるため、距離の融通性が高い本馬は中距離戦線に回って実績を積み重ねてきたという事情もある。

そして、仮に馬場状態が良くても他場よりもタフさを要求される東京のマイル戦では、彼が持つスタミナの豊かさも生かされたと考えられる。それは、早めに抜け出しながら、猛烈な脚色で迫ってきたナミュールとソウルラッシュを決して抜かせなかった、しぶとさにしっかり表われていた。

レース後、シャム調教師は、「馬にも騎手にも、そして自分自身にも自信がありました。(マイルの距離については)香港では2000mを中心に走ってきましたが、直線も香港に比べて長く、そして坂もあって、そのポテンシャルで対応できると思っていました」と、勝算を見込んでの遠征であったことを改めて明かしている。まさに、その読み通りの勝利を挙げたことに脱帽せざるを得ない。

なお、ロマンチックウォリアーと17着に敗れたヴォイッジバブルの香港勢2頭は、予備登録していた6月23日の宝塚記念(GⅠ、京都・芝2200m)には出走しない旨を示した。
一方、香港馬に後塵を拝した日本勢。半馬身差届かなかったナミュールの手綱を取った武豊騎手は、「前走と違い、活気を感じました。惜しかったです。残念。悔しいです」と、目論見通りのレースをしながらの惜敗にホゾを噛んだ。

ナミュールとはハナ差の3着に入ったソウルラッシュのジョアン・モレイラ騎手は「良いスタートを切って、良いポジションでリズムも良かった。ただ、勝ち馬に勝負しにいった分、最後に脚が上がってしまいました」と、無念のコメント。騎乗馬を褒めるとともに、勝ったロマンチックウォリアーの強さを素直に認めていた。

最後に、プレビュー記事で「特注」の穴馬として推奨した2頭について触れる。ジオグリフ(牡5歳/美浦・木村哲也厩舎)は、前で見せ場を作りながらの6着。エルトンバローズ(牡4歳/栗東・杉山晴紀厩舎)は、後方からじりじりと差を詰めて8着。前者は高値安定だが、壁を突き破るほどの復調はまだ見られず。エルトンバローズも昨年の毎日王冠(GⅡ)を制した時ほどの状態には、ひと息足りなかった印象だった。

それでもジオグリフは勝ち馬から0秒5差、エルトンバローズは0秒6差と相手が一枚上だったとはいえ、決して悲観するような着差ではない。特にエルトンバローズは、まだ4歳だけに、今後も忘れずマークしておきたい1頭である。

取材・文●三好達彦

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