悲しい土地

 例年、6月は昔の紙面をたどることが多くなる。雲仙・普賢岳で大火砕流が起きた3日の記事だけでなく、それから1カ月、半年、1年、3年のうちに被災地に何があったのか、歳月を目でなぞっている▲6.3から1カ月後の記事に〈雲仙旅館街 年内の宿泊キャンセル18万人〉とあった。雲仙に危険が迫ったわけではないのに、風評被害が温泉街を灰色に覆い、年末までに取り消しは40万人分に上った▲憶測で「危ない」と決め付ける風評は、被災地と、被災していない周りの地域を悩ませる。その半面、被災地を訪ねることが“きしみ”を生むこともある。能登半島への旅は「有意義」なのか「不謹慎」か、意見が割れているという▲地震による火災で大半が焼けた石川県の輪島朝市への旅行者が増えている。地元には「能登の今を知ってもらいたい」と歓迎する人がいる▲変わり果てた朝市へ足が向かない人も地元にはいる。そこを歩き回る旅行者に複雑な思いを抱くらしい。焼け跡を訪ねるのは「旅の記念」なのかどうか。胸に手を当てる必要もあるのだろう▲悲しい出来事があった土地への旅を「ダークツーリズム」(暗い観光旅行)と呼ぶという。長崎県には噴火の被災地も被爆地もある。“悲しい土地”への訪問の在り方を、わが事として考えてみたい。(徹)

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