熟年再婚した親の遺産相続はツライよ 50代女性が直面した問題とは

熟年再婚した父が死去。遺産相続でトラブルになることが(写真はイメージ)【写真:写真AC】

人生100年時代。高齢の親が再婚を望む場合があります。その際に、遺産相続についてきちんと話し合っておくべきだと話すのは、豊富な実務経験がある税理士でマネージャーナリストの板倉京さんです。お悩みをもとに解説します。

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1年前に再婚した父が死去 遺産相続トラブルに

「こんなことになるなら、父が再婚したいといったときに止めておけば良かった」

相談者の石川晶子さん(50歳・仮名)は父親を亡くし、だいぶ困っている様子でした。晶子さんの父は、亡くなる1年ほど前に10歳年下の女性と再婚。「結婚したい人がいる」と父から言われたとき、晶子さんは亡くなった母のこともあり、少々複雑な思いを抱えながらも結婚に賛成したといいます。父が老後をひとりでさみしく暮らすよりも、一緒に住んでくれる人がいたほうがいいと思ったからでした。

もちろん、父が再婚すれば、その妻に相続権が発生することは知っていました。けれども、おめでたい話のときに、そんなことをいいだすのは気が引けて、そのままにしてしまったそうです。

晶子さんの父の財産は、自宅の一戸建てと、現預金5000万円程度。この財産は、小さな会社を経営していた父と10年前に亡くなった母とが懸命に働いて築いたものです。

「父の財産は父だけのものじゃなく、母と一緒に築いてきたものです。とくに自宅は、私にとって父と母との思い出がたくさん詰まった家なんです。なのに、父の再婚相手が『財産の半分はもらう権利がある。できればこの家に住みたい』と言い出しました。たった1年間、一緒に暮らしただけなのに……」

晶子さんの気持ちはわかります。でも、再婚相手がいう通り、入籍をしている正式な配偶者であれば、婚姻期間の長短にかかわらず相続権が発生します。

亡くなった母と築いた財産であっても、後妻に相続の権利が

10年ほど前、有名俳優の宇津井健さんが亡くなる5時間前に入籍し、宇津井さんの長男と後妻の遺産争いがニュースになりました。このように、たとえ「数時間前に婚姻届を出したばかり」という場合でも、相続する権利があります。それだけ配偶者の権利は強いのです。

両親が一生懸命築いてきた自宅などの財産を、たった1年間一緒にいただけの人に半分も渡さなければならないなんて……納得できませんよね。とくに、大切な実家に、自分とは他人である再婚相手が住み続けることになれば、良い気持ちはしないでしょう。

もし、その再婚相手に子どもがいて、その子たちがその家に里帰りするようになったら……。思い出がいっぱい詰まった実家が、いつの間にか他人の実家になってしまうなんて、あんまりです。

人生100年時代と言われ、高齢化社会が進むなか、熟年再婚は増えているようです。いくつになっても恋をして、好きな人と一緒に暮らす。とても素敵なことですが、熟年再婚の場合、とくに子どもがいる場合は「のちのちの相続」についても考えていただきたいと思います。後妻(後夫)が自分の親の財産を相続するのは、子どもにとって少なからず抵抗があるものです。

そもそも、なぜ相続において配偶者の権利が強いのかというと、財産は夫婦の協力のもとに築き上げられたものだと考えられているからです。しかし、熟年再婚の場合はどうでしょうか。晶子さんの父が再婚したのは、75歳のとき。そのときにはすでに、家や財産を持っていて、仕事は引退し、年金生活に入っていました。ですから、財産を消費することはあっても、新しく財産を築くということはなかったはずです。

財産を一緒に築いたのは、亡くなった晶子さんの母です。つまり、配偶者に強い相続の権利を補償する法律の考え方には、ちょっと当てはまらないということになるのです。

高齢の親に再婚話が持ち上がったら注意を

また、後妻と晶子さんの間には親子関係がないため、後妻が亡くなって遺産相続が発生するときに、晶子さんには相続権がありません。仮に、自宅を後妻が相続した場合、ゆくゆくは後妻の子ども(子がいない場合はきょうだい)などに自宅を相続されてしまいます。

一度、後妻に渡した財産は、遺言書でもない限り、晶子さんが手にすることはできないのです。こうなると、ますます財産を渡したくないという気持ちになるでしょう。

こんなことにならないよう、高齢の親に再婚話が持ち上がったときは、親の財産を誰が相続することになるのか、家族の間でしっかりと話し合い、遺言書で明確にしておく必要があります。

晶子さんの場合は父でしたが、男性に限らず、女性の場合も同じです。熟年再婚の場合は、お互いが財産も家族も持っているというケースが多いからです。

高齢での再婚は、遺産相続だけでなくお墓や介護の問題も

余談ですが、熟年再婚の場合、相続以外にも事前に解決しておいたほうがいい問題があります。

ひとつは、お墓。たとえば、妻と死別して再婚した場合、先妻の眠るお墓に後妻が入るのは、残された家族にとっても複雑な思いがするものです。後妻が亡くなったときにお墓をどうするかは、あらかじめ話し合っておきたいところです。

もうひとつは、介護です。熟年再婚の場合、介護は身近な問題です。相手が要介護状態になったらどうするのか。幸せいっぱいの状態でそんなことを考えるのは野暮かもしれませんが、避けては通れない問題です。介護と遺産相続をセットで考えて財産配分を検討する、ということも考えておく必要があります。

いずれにせよ、「おめでたいときにそんなこと考えたくない」などと言わず、いずれくる遺産相続や介護についても、しっかり考えてほしいと思います。

板倉 京(いたくら・みやこ)
1966年10月19日、東京都生まれ。神奈川県内で育ち、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。保険会社勤務後に結婚。29歳で税理士資格試験の受験を決意し、32歳で合格する。36歳での長男出産を経て、38歳で独立。主な得意分野は、相続、税金、不動産、保険。テレビでは「あさイチ」「首都圏ネットワーク」(ともにNHK)、「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)、ラジオでは「生島ヒロシのおはよう一直線」(TBSラジオ)などに出演して解説。主な著書は「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「相続はつらいよ」(光文社知恵の森文庫)、「女性が税理士になって成功する法」(アニモ出版)、「知らないと大損する! 定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など多数。

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