「バスケW杯を100回以上見た」ドキュメンタリー監督が語る、勝因と五輪への期待「トムさんがやっぱり凄かった」

インタビューに応じた大西雄一氏【写真:ENCOUNT編集部】

映画『BELIEVE 日本バスケを諦めなかった男たち』が6月7日から4週間限定公開

パリ五輪が7月26日に開幕するのを前に、「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」でのバスケ男子日本代表の激闘を収めたドキュメンタリー映画『BELIEVE 日本バスケを諦めなかった男たち』が6月7日から4週間限定公開される。本作の監督、大西雄一氏(47)が映画製作の舞台ウラ、選手への期待を語った。(取材・文=平辻哲也)

バスケ男子代表「AKATSUKI JAPAN」がオリンピック出場を決めたのは、1976年のモントリオール大会以来48年ぶり。その切符をつかんだのが昨年8~9月に沖縄ほかで開催されたワールドカップ(W杯)だ。日本代表は1次ラウンドで強豪ドイツ(63-81)、オーストラリア(89-109)に破れたものの、フィンランド(98-88)に競り勝ち、「17~32位順位決定戦」ではベネズエラ(86-77)、カーボベルデ(80-71)に勝利し、アジア第1位となった。

映画では、日本バスケットボール協会の監修・協力のもと、試合映像に加え、トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)や代表選手12人だけではなく、日本のバスケ界をけん引してきた佐古賢一氏、田臥勇太といったレジェンドへのインタビューを行った。

大西監督はジャンルレスにドキュメンタリーを撮ってきたベテラン。W杯はたまたまフィンランド戦からテレビ観戦していたそう。

「僕は『スラムダンク』世代ですが、最近のバスケは知らなかったんです。フィンランド戦を見て、『今の日本はこんなに強いの?』と驚きました。知識はなかったので、すごく勉強しましたし、この5試合は50回以上、いや100回くらい見ています。どのバスケファンよりも見ているんじゃないかな。いろんな雑誌、ネット記事のインタビューも読み、バスケの代表の歴史も調べました」

映画では、勝利した試合だけではなく、負けた試合にも着目した。

「選手たちがどんな思いで合宿を行い、ドイツ戦に挑んでいったのか。代表選手たちの思いを知るためには、歴史も調べないといけない。そんな中、キャッチーになる言葉が『BELIEVE』でした。その後からトムさんにもインタビューしたのですが、言葉を聞くと、間違っていなかった、と思いました。日本代表の強さは、信頼。トムさんも選手を信じているし、選手たちもトムさんを信頼している。だから強固な関係がある」

一番印象に残ったワンプレーはベネズエラ戦だ。

「河村(勇輝)選手が相手コートからしつこいディフェンスをしかけ、堪えきれなくなってこぼれたボールを馬場(雄大)選手が奪い、最後に比江島慎選手に渡す。このプレーが5試合の全得点の中で一番、AKATSUKI JAPANの思いがこもっている。仲間を信じて全員が走る。馬場さんも自分でシュートを決められたかもしれないけど、確実な比江島選手に託した。このことをトムさんに話したら、『これがうちのプレーです』と言ってくれました」

印象的だった言葉を明かした【写真:(C)2024「BELIEVE」製作委員会 (C)FIBA (C)⽇本バスケットボール協会】

ナレーションの広瀬すずを絶賛「やっぱり、俳優さんは違うなと」

選手インタビューでは、なるべく初出のエピソードにもこだわった。「みんながチームファーストだった」という言葉も印象に残っている。

「トムさんも、『12人にわがままな選手が1人もいない』とおっしゃっていた。選手も同じ。チームの中の役割はそれぞれ違う。自分の役割は12人がそれぞれ持っている中で、劇的な大逆転劇で得点という目に見える形で貢献した比江島さん、河村さん、富永(啓生)さんがフォーカスされがちですが、それだけではない。監督業は裏方でもあるので、活躍を下支えした選手たちの思いも描いたつもりです」

選手たち、コーチは逆境の中に陥った時でも、自分たちの勝利を誰一人疑っていなかったそうで、「『12人全員が僕たちのゲームプランだったら、逆転できる』と同じことを言うんです。これだけ思いが一緒だから、あの結果につながったんだなと思いました。こんなふうに、人と同じ目標を持って信じられるものかとびっくりしました。それにはトムさんがやっぱりすごかったんだと思います」。

ナレーションは、バスケW杯テレビ朝日スペシャルブースターとして盛り上げたバスケファンの広瀬すずがナレーションを担当している。

「会場での盛り上がりを体験されていたので、ぜひと思っていたのですが、『今回は広瀬さんが主役ではないので、選手たちが引き立つナレーションにしてください』とお願いして、試行錯誤しながら読み合わせしました。とてもなじんでいて、広瀬さんだと気づかない人もいるかもしれない。やっぱり、俳優さんは違うなと思いました」

いよいよパリ五輪も近づいている。予選ラウンドは日本時間7月27日午後8時30分、ドイツ戦(世界ランク3位)、30日深夜0時15分、フランス戦(同9位)、8月2日午後6時、OQTラトビア大会勝者(ラトビア、ブラジル、モンテネグロ、ジョージア、フィリピン、カメルーン)戦となる。

「ドイツとは再戦です。選手のみなさんは後半(第3クオーター日本16-16ドイツ、第4クオーター日本16-12ドイツ)で上回ったことが自信になった、と言っています。これがその後の結果にもつながっていたと思うので、後半のようなゲームを40分間できたら、初戦の勝利も見えてくるのではないかと思います。それができるよう合宿していくと思うんです。また歴史を塗り替えていくんじゃないかなと期待しかないです」と勝利を信じている。

□大西雄一(おおにし・ゆういち)1977年1月29日生まれ。大阪府出身。大学卒業後に制作会社に就職し、主にドキュメンタリーのディレクターを務める。取材対象は政治家、歌手、作家、会社経営者、モータースポーツドライバー、歴史人口学者、科学者、医師、社会起業家、映画監督、サッカー選手、ピアニストなどジャンルレス。現在は自身の会社「One Mile」を立ち上げ、フリーランスとして活躍。主な作品は『ぜんぶ見せます!激闘2020MLB』(2020年・NHK)、『WRC 世界ラリー選手権』(2021年・NHK)、詰め込み教育の反動から変わりゆく中国教育のリアルをえがいた『中国の小学校でいま何が?』(2018年・NHK)、『コロナ危機 未来の選択/エマニュエル・トッド~ グローバリゼーションを超えて』(2020年・NHK)、『ザ・ヒューマン テロリストも一人の若者である~国際NGO代表 永井陽右~』(2022年・NHK)、『デジタル・アイ 北朝鮮 独裁国家の隠された“リアル”』(2023年・NHK)など。平辻哲也

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