【改正案衆院通過】法の理念忘れてないか(6月7日)

 自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法改正案は、生煮えのまま衆院を通過した。自民党の一連の姿勢は、政治とカネにまつわる既得権を瀬戸際まで死守しようとしているようにしか見えなかった。政治活動に対する国民の不断の監視と批判の下で民主政治の健全な発展をうたう規正法の理念を、党も、岸田文雄首相も踏みにじってはいないか。参院でも日程ありきで成立を急げば、棚上げされた問題が塩漬けになる懸念を拭えない。

 使途の公開義務のない政策活動費を巡って岸田首相は、10年後の領収書の公開が黒塗りで出される余地を5日の衆院特別委員会で問われた。規正法違反の公訴時効は5年で、所得税法上も時効成立後の公開となれば、不正が発覚しても誰も罰せられないとも指摘された。

 野党側の追及に対し、岸田首相は「改正案が成立した暁には罰則の要否を含め各党で検討される」と述べるにとどめ、抜け道をふさぐ策も道筋も示していない。政策活動費を監査する第三者機関については、透明性を高める上で重要との認識を示しはした。一方で、「どういった権限を与えるのか、政治の自由や透明性との関係で簡単な議論ではない」と予防線を張るようでは、有言実行で具現化する意思は伝わらない。

 事あるごとに口にする「政治活動の自由」も、もはやそうすんなりとは受け入れ難い。規正法の理念に照らして重視すべきは本来、国民の不断の監視と批判をどう保障するかではないか。

 政治資金パーティー券購入者の公開基準を「5万円超」に引き下げる規定は2027(令和9)年1月1日に施行するとされたままだ。現行の「20万円超」が維持される2年半の間に、衆院議員は任期満了を迎え、参院議員は半数が改選される。選挙前にパーティーを駆け込みで開催するのでは、との疑念が湧くのも当然だろう。

 首相は準備期間を考慮したとしているが、定額減税など政権の目玉政策では短時日の対応を自治体や事業所に迫って負担を強いる。身を切る改革は先送りするような姿勢に落差を感じずにはいられない。参院は国民の信任を得られる審議を尽くすべきだ。真価が試される。(五十嵐稔)

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