入社から2か月、スマホ世代新入社員が直面する固定電話問題 消えゆく“学びのツール”も残る慣れるメリット

固定電話に四苦八苦する新入社員が多数 ※画像はphotolibrary

4月に行なわれた入社式から早2か月。新入社員の多くは研修期間も終わり、配属先が決まったという人も多いだろう。真新しいパソコンがあるデスクが用意されたオフィスへと足を踏み入れる姿に胸をときめかせている若者も少なくないはず……と思いきや現在、職場ではそんな新入社員を悩ませる問題があるという。それは“固定電話問題”。

今年、4年制大学を卒業した新人が生まれたのは2001年。総務省『情報通信白書』によれば、この年は移動電話の契約件数の合計(携帯電話とPHS計、6678万件)が初めて固定電話の契約件数(6196万件)を超えた転換期でもある。以降固定電話の契約件数は低下する一方だが、モバイル端末は右肩上がりに普及していく。

「スマートフォンの登場はさらに、モバイル端末市場を勢いつけました。現在、新社会人として入社した新人社員が中学3年生だった16年には13~19歳のスマホ個人保有率は81.4%と、すでにスマホは身近なものに。友人や家族との連絡手段はLINEやSNSで済ませるのは当たり前という世代です」(トレンドライター)

まさにスマホネイティブ世代である令和の新人。そんな彼らが固定電話に不慣れなのも無理はない。

IT企業の男性社員(41)は「今はメールやチャットツールでのコミュニケーションがメインで、オフィスの電話が鳴らなくなっている」と時代の変化に言及しながら、「電話が鳴ったとき、若い世代は“出る”という意識がない」と、その実態を明かす。

「新卒研修で初めて固定電話に触るという人も多いです。家に固定電話があっても、かかってくるのはオレオレ詐欺か無用の営業電話という認識で警戒心が強く、“出なくていいもの”という位置づけになっている」(前出の男性社員)

この春、不動産会社に入社したばかりの女性(23)は、職場の電話で商談や訪問を取りつける“テレアポ”がマストという状況に、「無理すぎる」と嘆く。「知らない相手の時間にいきなり割り込むのが苦手。まだLINEやインスタなら通話するにしても、前もって相手に“今大丈夫?”と確認できるのに、固定電話はそれができないから、かけるのに気を遣う」と戸惑う。

どこでも通話可能な携帯電話と異なり、「固定」というのもハードルが高いようだ。金融機関勤務の男性(22)は、「他人にやり取りを聞かれるのがイヤ過ぎる」と話す。

固定電話に怯える若者がいる一方で、先輩社員も“電話問題”には密かに頭を抱えているという。広告業界で管理職に就く男性(40)は、「電話に出るように指導したら、出社拒否を起こされたことがある」とボヤく。紫煙が机の上を覆っていた昭和の時代、デスク上の電話が鳴れば新人がとるべきものと相場が決まっていたが、それも過去の話になってゆくのか。

■元リクルート社員の鬼テレアポ「ガムテで手と受話器を固定され……」

新人も上司も部下も頭を悩ませる電話問題。会社員時代に人事担当の経験があり、労働問題に詳しい千葉商科大学准教授の常見陽平氏は、「いつの時代も新社会人にとって職場の電話は緊張するもの」としたうえで、「昔は電話以外の手段がなかったため、慣れざるを得なかっただけ」と、弊サイトの取材に振り返る。自身も1997年に新卒入社したリクルート社員時代、今なら考えられないようなアポ取りをした経験があるという。

「営業に強いといわれるリクルートでは、当時新人社員のテレアポはマストでした。リクルート用語で『テレクリ』というのがあって、“テレ”は電話(テレフォン)、“クリ”はクリーニングの略。営業先候補の電話リストに一件一件電話をかけ、リストを電話済み=キレイにしていくという意味です。

社内ではテレクリ大会があって、ガムテープで手と受話器をガッチリ固定され、20件アポを取るまで終わらないというルール。僕は午前中いっぱいかかった記憶がありますね」(常見氏)

ガムテープで手を固定されるとはスパルタだが、当時の“イケイケ”なノリのリクルートでは慣例だったようだ。社会人の第一歩は電話に慣れることだったといってもいい当時の新人は皆、電話での受け答えは「ビジネスマナー」として叩き込まれたという。常見氏は「社内で電話の練習をした」と、当時を振り返る。

「話し方や声のトーンなど、顔が見えないからこそ気を遣ったほうがいいポイントがあって、新規営業の電話でもいかに警戒されないか、相手の信頼を勝ち得るかといったノウハウを教えてもらいながら、模擬演習をする。実際、電話営業は度胸も含めて相当鍛えられたと思います」(前同)

固定電話でのやり取りを経験し、「相手に対する想像力やコミュニケーション術が養われた」という常見氏。電話をかけるだけでなく、「とる」方でも学んだことがあるそうだ。

「新人が電話をとるのは、敬語や挨拶のマナーを覚える、相手にとっては自分が会社の“顔”となるという自覚をもたせる意味合いのほかに、どういった会社と取引があるのかを覚えさせるメリットもあります。またデスクで先輩が電話をしている姿を見て、言葉遣いや仕事に対する姿勢も学びましたね」(同)

■新人のうちに固定電話に慣れていたほうがいいワケ

かつては職場で仕事を進めるうえで必須ツールと見られていた固定電話。自身も在籍したリクルートでは電話営業により「社会人のイロハ」を叩きこまれたという前出の常見氏は、令和の新入社員が電話を取りたがらない現状をどう見るのか。

「基本的に、固定電話は相手の時間を侵略する暴力的なメディアなので、かけるのもとるのも嫌いという人は昔から多いと思います。ただメールや社内SNSなど電話以外の連絡手段がある今では、昔のように“慣れろ”といっても慣れるほど電話を使う機会もないのが実情でしょう。

ただ、そうはいってもまだまだ音声コミュニケーションはなくならない。自分たちはSNSでやり取りをすればいいけど、急を要する連絡や、ニュアンスを伝えたいときに電話は便利です。ちょっと相手の意向をうかがいたいだけ、といった”微妙”な相談をするのにも適しています。

むしろ今のうちに電話に慣れておいてはいかがでしょうか。新人のうちの最大のメリットは失敗しても許されること。自分の武器を増やすのだと考えると、電話に対する見え方が変わります」(常見氏)

固定電話問題に直面する新社会人たち。ムダなものだと無視するか、スキルアップのツールと捉えるか――。

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