「まさか生き残っていたとは」きっかけは漁師がSNSに投稿した写真 研究員が衝撃を受けた「いるはずのない貝」

SNSに漁師が投稿した画像に岩手県水産技術センターの研究員が驚きました。
「まさか生き残っていたとは・・・」

そこには、ヨーロッパで“高級食材”として大人気だというある「貝」の姿が、はっきりと写っていました。

2023年4月、岩手県釜石市にある県水産技術センターの寺本沙也加専門研究員は、岩手県山田町の漁師が「これは何だ?」というコメントと一緒にSNSに投稿したある貝の画像にくぎ付けになりました。
「日本に生息するどの貝でもない!体に電気が走るような衝撃を感じました」

ホタテ貝にも似た丸みを帯びた独特の貝殻の形。それはまぎれもなく30年以上前に岩手から姿を消したとされる「ヨーロッパヒラガキ」だったのです。

「物心が付く頃から貝が好きすぎて、3歳の頃から貝殻の収集に熱中していました」と話すほど大の貝好きの寺本さん。すぐに山田町に向かい、調査を開始しました。すると、養殖されているマガキにくっつく形で、数多くのヨーロッパヒラガキが確認されたのです。

漁協などへの聞き取りの結果、かつて試験養殖が行われていた山田湾だけでなく、北は宮古湾から南は陸前高田市の広田湾まで、岩手県内7つの湾にヨーロッパヒラガキが生息していることが分かりました。

「天然で残っているとは思っていなかった」
寺本さんは生息範囲の広さと繁殖力の強さに驚いたといいます。
ヨーロッパヒラガキが日本に持ち込まれたのは1950年代初めのこと。北海道や岩手県などで養殖が試みられましたが種苗の生産がうまくいかず、岩手では1990年代初めごろ、山田湾での養殖を最後に消滅したとされていました。

「ヨーロッパではオイスターバーでワインといっしょに頂く高級食材です。私は食べたことないですが、独特の渋みがあって癖になる味わいだそうです」と寺本さん。

研究の成果を論文にまとめて5月、国際的な学術誌に発表しました。
するとこの論文は、「国外から意図的に持ち込まれたカキ類が天然の海域に定着した事例」としては、国内初の発表となりました。

近年、三陸沿岸では「高水温」によってホタテやワカメの収穫量が落ち込んでいて、対策が急がれています。

「主産地のヨーロッパでは資源量が激減していて、日本への輸入は5年前から止まっています。岩手の水産業を活性化させる産品になる可能性を秘めています」

「ヨーロッパヒラガキ」が三陸の海に新たな可能性をもたらすのか―。
種苗の安定生産や養殖技術の確立に向け、寺本さんの研究に期待が寄せられています。

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