ミャンマーに難題を突きつけた森保ジャパンの“アタッキング3バック”。印象的だったのは3人の立ち位置の狭さ

6月6日に行なわれた北中米ワールドカップ・アジア2次予選のミャンマー戦は、アウェーの日本が5-0で大勝を収めた。

17分に中村敬斗が先制ゴール。34分に堂安律が追加点を挙げた後、しばらく試合は2-0で経過したが、75分、83分に小川航基が連続得点をマークし、終了間際には再び中村がゴールネットを揺らした。

すでに最終予選行きを決めていた日本だが、小川や後半から出場した鈴木唯人、川村拓夢など、普段は出場機会が少ない選手のモチベーションは最後まで高く、アウェーで大量点を挙げる結果になった。

そのフレッシュな顔ぶれの起用とともに、この試合で日本は新しい3バックシステムと戦術に挑戦した。守備時は[5-2-3]だが、ポゼッション時は両ウイングバックの中村と菅原由勢が高い位置を取り、さらにボランチから1枚、旗手怜央が上がって[3-1-5-1]へ。攻撃に厚みを持たせる。

昨年11月のホームでの対戦と同様、ミャンマーは[5-4-1]で守備を固めてきたが、日本の新しいシステム、アタッキング3バックは序盤から相手に難題を突きつけた。

相手の5バックに対し、日本は1トップと5枚のMFが立つため、この時点で数的優位だ。相手のウイングバックが中村や菅原へアプローチすれば、即座に鎌田大地や堂安が斜めに走って裏を陥れる。そこへ相手の左右CBが遅れてカバーに張り出せば、中央で旗手がフリーだ。

各所でミャンマーの5バックが寄せに出た瞬間、日本はその裏を突く。そもそも数的優位があるので、相手の対応は遅れがちだ。特に左サイドは伊藤洋輝が高い位置を取ることで、鎌田や旗手、中村が立ち位置をローテーションしながら多彩な裏抜けを見せていた。

また、相手ボランチがカバーに下がってくれば、真ん中で守田英正が浮く。相手に後手の対応を強いた結果、最終的に守田からのフィニッシュ、ラストパスになる場面もあった。

この前線優位のアタッキングシステムを機能させるうえで、大切になるのが、3バックの立ち位置だ。いかに[3-1]のビルドアップから縦へボールを運ぶか。[3-1]の後尾から[5-1]の前線へボールを運べなければ、結局5枚のMFが下がらざるを得ず、それでは優位を生かせない。

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印象的だったのは今回、日本の3バックが立ち位置を狭く取ったことだった。センターサークルのやや外側、約25メートルの幅に3枚が立ち、ボールを回した。ピッチ幅の半分よりも狭い。通常とは大きく異なるので、戦術的な意図があったのは明らかだ。

その影響を一番感じた人物は、ミャンマーのサイドハーフだったのではないか。プレッシング時はサイドハーフが縦ズレして1トップに加勢するのがミャンマーのやり方だが、自分が見るべき相手DFが真正面ではなく、幅を狭めて違うレーンに立っているので、単純に遠い。縦ズレではなく、斜めズレしなければ届かないし、仮にタイミング良くいけても、3枚で回されているので追い詰めきれない。

また、自陣のブロックで構える時も、伊藤や橋岡大樹に内側のパスコースを覗かれないよう、中へ絞ると、サイドが空いてしまい、大外で中村らに起点を作られる。逆も然りだ。間のレーンに立たれているので、いちいち判断に困り、次第に寄せられなくなる。幅が狭い日本の3バックは、相手[5-4-1]のMFの立ち位置を狂わせ、パスコースを空ける効果があった。

もっとも、すべてがうまくいったわけではない。徐々にミャンマーが裏抜けに対応し始めると、序盤ほどの美しいコンビネーションは見られなくなった。堂安の追加点後、およそ45分にわたり、日本は得点を生み出せていない。

また、守備面でも57分にロングキックの競り合いにいった谷口彰悟の背後を誰もカバーできず、こぼれ球を川村が奪われ、失点間近のショートカウンターを食らいかけた。なぜか、ミャンマーがバックパスを選択したので助かったが、瞬間的に2-1に迫られてもおかしくない場面だった。

こうした日本の軟調を変えたのは、62分の前田大然と相馬勇紀、両ウイング投入だろう。連係が滞っていた右サイドは、サイドアタッカーの相馬が入って活性化し、個人の仕掛けとクロスから小川の2ゴールを生み出した。

少し先を想像してみる。日本が誇る2人の世界的ウインガー、三笘薫と伊東純也の2人は今回も招集外となったが、今後の最終予選でも同様の状況はあり得る。それを踏まえ、日本はウイングの独破に頼らない攻撃システムや連係を模索したように見えたが、その模索が迷路にはまりかけたとき、再び突破口になったのは、やはりウイングだった。

結局、という言い方もできるが、前半からボールを回してミャンマーを疲弊させたため、90分の設計として、前田や相馬の投入が効いた面はある。

ただし、相手が最初から日本のやり方を分析し、対策してきた場合。ましてミャンマーよりも質やモチベーションが高い、最終予選の相手を、これほど疲弊させることができるのか。堂安の得点後、2-0のまま沈黙した45分間は「現時点ではノー」と答えている気がする。引き続き、すべてを高めなければならないだろう。

取材・文●清水英斗(サッカーライター)

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