次世代F1マシンは「速く、軽く、俊敏」に。FIAが2026年施行の新規則を発表

Image:FIA

FIAが、2026年から数年間のF1世界選手権に適用されるテクニカルレギュレーションを発表した。2026年はエンジンを含むパワーユニットに関する規則が大幅に変更されることが早くから決まっていたが、それに合わせ車体側も、現行マシン規則にみられる問題点を解決するための変更が加えられることになる。

FIAのシングルシーター技術責任者ニコラス・トンバジス氏は、このレギュレーションで「軽量で、最高の速さと俊敏性を持ち、なおかつテクノロジーの最先端を行く」という「F1のDNAを完全に受け継ぐ新世代のマシン」を目指したと述べている。

現行のF1マシンが従っているテクニカルレギュレーションは、2022年に施行されたもの。今年でまだ3年目だ。

2022年以前のF1マシンは、1980年代に安全性の確保のために導入されたフラットボトム規定を基本的に踏襲し、高速度域でマシンを安定させるためには車体前後に装着される空力パーツ、いわゆるウィングによって発生させていた。

しかし、ウィングにダウンフォースの大半を頼るデザインは、2000年代以降マシンの速度が向上するにつれて、マシン後方に発生する乱気流によって、後続マシンのウィングでのダウンフォース生成が阻害されるため、かつてのレースで見られたコーナリングでの追い越しなどが困難になり、レースそのものが高速パレードに終始する傾向が強まった。

FIAはレース中の追い越しを可能にさせるために、後続車がコースの直線区間でリアウィングを寝かせるように可動させて速度を上げる「DRS」と呼ばれる機構を導入し、前方のマシンを追い越しやすくしようとしたが、これも長いストレート区間を持つコースでなければ、さほど有効に機能していないのが実情だ。

そのため、FIAは1970年代~1980年代初頭のF1で流行したものの、当時の技術ではマシンが高速になりすぎて危険とされたグラウンドエフェクトカーの原理を2022年から再導入することにした。この現行の規則は、車体の底面を後方に向けてえぐるように形作ることで、走行中に前方から車体下面に取り入れた空気に負圧を発生させて、マシンを路面に吸い付かせる効果を生み出す。これによって走行中のマシン安定化におけるフロントウィングの重要性が低くなり、各マシンがより接近して競走できるようになるという目論見だった。

実際、2022年の現行規則導入以降、コース上での接近戦は頻度が増したように思える。しかし、一方で路面の起伏やマシンの空力的特性によって車体が下面の空気をうまく処理できず、激しく上下に振動してしまう「ポーパシング(ポーポイジング)」現象が発生し、それを抑えるために車体を下げ、サスペンションを硬くするセットアップを採用すると、今度は路面の起伏などで生じる上下動を抑えきれなくなる「バウンシング」が発生するという面倒な状況を生み出した。

今回発表された2026年以降のテクニカルレギュレーションは、この問題を解決するために、グラウンドエフェクト効果を弱める方向で調整された。FIAによると、2026年のレギュレーションをシミュレーションしたところ、現在よりもダウンフォースが30%、空気抵抗は55%削減されたという。

またすでに決定している2026年以降のF1パワーユニットのレギュレーションでは、ハイブリッドシステム内のV6内燃エンジン(ICE)出力が燃料流量の削減により現在の550〜560kWから536ps(約400kW)に引き下げられる。一方、ハイブリッド用モーターの出力は現在の120kWから470ps(350kW)へと大きく引き上げられる。ハイブリッド機構の一部であるMGU-Hの廃止もあって、全体的な出力は20psほどの向上にとどまるが、ブレーキ回生システムのエネルギー発生量が現在の2倍にあたる8.5MJに引き上げられるため、そのエネルギーをデプロイ、つまり加速に使用できる機会は増えることになる。

Image:FIA

ダウンフォースと空気抵抗が小さくなれば、マシンは直線では非常に速くなるものの、コーナリングが不得手になるが、FIAはマシン全体のサイズを小さく、また軽くすることで、俊敏性も向上させる考えのようだ。2026年規定ではマシンの最大ホイールベースは200m短縮されて3400mmとなり、全幅は100mm縮小されて1900mmとなる。重量は2022年型マシンに比べて30kg減の768kgになる。マシンが小さくなれば、モナコGPなどコース幅の狭いサーキットでのレースでの追い越しの機会も増えることが期待される。

Image:FIA

さらにこれまでのDRSシステムはリアウィングのみ可動式としていたが、2026年規定はフロントウィングも動かせるようになる。レース中の使用可能区間はDRSと同様になる模様だ。

そのほか、2022年から導入された18インチのタイヤサイズは維持されるが、2026年規定ではタイヤ幅がフロントで25mm、リアは30mm狭められる。またマシンのコクピット前方部分を構成するフロントノーズには、衝突時のリスクを軽減するために2段階の構造デザインを導入した。

2026年のF1テクニカルレギュレーションは、6月28日に開かれる世界モータースポーツ評議会で正式に承認される予定だ。

現在、F1ではレッドブルF1チームおよびRB F1チームのパワーユニットの開発製造を担当するレッドブルパワートレインズ(RBPT)をホンダが支援している。ホンダは2026年からは自社単独でのパワーユニット供給を再開し、現在の2チームを離れ、新たにアストンマーティンF1チームと協力することが決まっている。また2026年のパワーユニット規定施行にともない、フォード(RBPTと提携)とアウディがF1に参加する予定となっている。

© 株式会社 音元出版