俳優・原田大二郎さん「夢の中にいるように静かに染みわたる」内田百閒の魅力を語る 三島由紀夫も傑作と評した「磯辺の松」の世界へと誘う【岡山】

*このイベントは都合で中止になりました。

俳優の原田大二郎さん(80)が、小説「磯辺の松」を岡山市の寺で朗読します。

「磯辺の松」は、岡山市生まれの小説家・随筆家、内田百閒(うちだひゃっけん)によるもので、百閒の親友の箏曲家・宮城道雄を題材にしています。宮城道雄といえば、有名な箏曲「春の海」の作曲者としても知られますが、随筆家としても評価が高く、その随筆には百閒も登場するのです。

さて、「磯辺の松」は、女学校の箏の授業の場面から始まります。
主人公は目の不自由な箏の先生、柳検校です。
柳検校は、女学校の英語教諭、三木に淡い恋心を寄せています。

女学校が夏休みに入り、毎日稽古に訪れる三木に、柳検校は「磯辺の松に葉隠れて沖の方へと入る月の光や夢の世を早う」という歌詞の地歌「残月」を教えます。

その後、三木の縁談話などで一旦中断するものの、柳検校と三木は「残月」の稽古を重ねます。しかし、歌の最後の一節だけを残して突如終わりを迎えることになるのです。その理由は…。

「人間を浮き彫りにする」 原田大二郎さんが「磯辺の松」を朗読

6月9日(日)、岡山市北区の蔭凉寺で開かれる朗読会では、柳検校の老いらくの恋物語を、原田大二郎さんが箏の生演奏とともに朗読します。

原田大二郎さんに百閒の魅力を聞きました。

ー内田百閒作品との出会いは?

(原田大二郎さん)
「1963年のことです。明治大学に通っていたんですが、国語の先生が開口一番『君たちに内田百閒を紹介したい。ぜひ読んでほしい』と言ったんです。それで買って読んでみたら、どうも好みに合わなかった。

それから、役者をやって10年くらい経った頃かな。改めて読み直してみたら、静かな染みわたるような作風の良さがやっと分かったんです。いつか朗読したいと思いながら時間が過ぎ、今回岡山で初めて百閒を読むことになりました」

ー岡山の朗読会では、これまで坂口安吾や菊池寛などの作品を朗読されていますが、百閒の魅力は?

(原田大二郎さん)
「百閒の作品は、夢の中の物語ですね。百閒の師匠の夏目漱石の『夢十夜』のような作風に憧れがあったのかもしれない。随筆『阿房列車』の中にさえ、夢の中のような雰囲気を感じることがある。

この『磯辺の松』にも、柳検校が三木に箏を教える最中に夢の中へ誘われるような場面がある。

それから、物語の構成に計算が行き届いているように思えて、百閒は『数学的な人』だと感じますね」

「役者はわざと濁してゆく」柳検校をリアルに表現し百閒の世界へ誘う

ー今回の朗読会では、高松市在住の箏奏者、木村西葉さんが作品にも登場する「残月」を唄い演奏するほか、雷鳴や雨風を箏で表現するなど物語の世界を彩ります。

(原田大二郎さん)
「百閒は親友の宮城道雄に箏を習い、相当の腕前だったといいます。『磯辺の松』には箏の音色が絶対によく似合う。立体的な舞台になると思います。

そして、役者が朗読するということは、人間を浮き彫りにするということです。アナウンサーが一言ひとことを誠実に朗読するとしたら、役者はその逆で、わざと濁してゆく。そうすることで立体的な人間像を描いてみせることが役者の仕事なのです」

ーかつて、三島由紀夫が「磯辺の松」を傑作と評しています。百閒のふるさと・岡山で朗読するお気持ちは?

(原田大二郎さん)
「岡山は私にとってもふるさとのような存在の街で。明治大学に通っていた頃、岡山大学に通う友人がいて、帰郷するときに岡山で合流して、一緒に郷里の山口へ帰るとか、昔からよく来ていたんです。同じ中国地方ということで言葉も似ているから、兵庫県から岡山県に入ったらもうふるさとに帰ったような気がしていましたね。

そんな岡山で私が百閒を朗読するのは初めてですから、ぜひ聴きにいらしてほしいです」

「原田大二郎 内田百閒と平家物語を読む」は、岡山市北区中央町の蔭凉寺で6月9日(日)14時から開かれます。

料金:2500円(当日3000円)
【問合せ】蔭凉寺 Mail: inryoji@mac.com TEL 090-1003-1481

© RSK山陽放送株式会社