<1>実態に衝撃、撲滅へ行動 リーダーシップ 希望って何ですか

子どもの貧困撲滅5か年計画の事業評価などが報告された小山市子ども・子育て会議=5月下旬

 「こんな家庭が小山にあるのか」

 10年前、2014年5月4日早朝。小山市長を務めていた大久保寿夫(おおくぼとしお)さん(75)は下野新聞を開いてがくぜんとした。

 目にしたのは当時の連載「希望って何ですか 貧困の中の子ども」第4章の初回。小山市内で暮らす、中学2年と小学6年のきょうだい、母、祖母の困窮する4人家族を紹介していた。

 雨漏りする築70年以上の古い民家。料金を滞納して電気が止められ、古い畳には明かりをとるためのろうそくが倒れて焼けた痕がついていた。写真に写るきょうだいは焦げ跡を背に座り、小さなテレビ画面を眺めていた。

 祖母を通じて状況を知った介護保険施設のケアマネジャーは「子どもにとって、あまりにも厳しい環境」と漏らした。衣食住全てに支援が必要なのは明らかだった。

 「小山は豊かなまちの一つだと思っていた」。衝撃的だった。

 記事の掲載はゴールデンウイーク中の日曜日。でも、大久保さんはいてもたってもいられなかった。すぐさま市の担当部長らに連絡し、実態の確認や対応の協議に入った。

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 4カ月後。同年9月定例市議会一般質問の答弁に立った大久保さんは「今年を小山市の子どもの貧困撲滅の元年と位置付け、本格的に貧困対策に取り組む」と宣言。県内市町で初めてとなる、子どもの貧困対策に特化した計画を策定する考えを明らかにした。

 当時、市町村には同計画の策定は求められていなかったが、相対的貧困の中にいる子どもの存在を知った自治体リーダーとして「計画がないと物事は進まない」と指揮。翌15年、「小山市子どもの貧困撲滅5か年計画」は策定された。徹底して取り組む意志を、「撲滅」という言葉に込めた。

 誰にとっても人生は一度きり。子どもの人生が、生育環境に左右されてはならないという強い思いがあった。

 計画には早期発見、生活支援、教育支援、就労支援、経済的支援、支援体制の整備・充実の6項目に、47の事業を位置付けた。

 推進に当たっての体制を検討すると、早期発見は学校の教職員、就労支援は市経済部、学習支援の実施会場は公民館といった風に、多くの部署が該当した。

 「子どもの貧困は全庁的な問題」と捉えた大久保さん。小中学校長らを含めた100人規模の大きな会議を定期的に開き、課題の共有を図った。

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 子どもの貧困の撲滅に向け、小山市が市を挙げて取り組み始めて10年がたった。対策は、市長が代わった現在も続けられている。しかし「撲滅」はまだ、なされていない。遠く険しい道の半ばにいるのが現状だ。

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 2014年の子どもの貧困対策推進法施行以降、各地で子どもの貧困解消への取り組みが始まった一方で、新たな課題に直面している自治体も少なくない。苦しみながらも歩みを進める様は、国民的応援歌の「三歩進んで二歩下がる」という歌詞にも重なる。日本に先んじて対策に乗り出した英国の現状にも目を向け、県内外で試行錯誤するこの10年間の姿を追う。

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