「囲い込み」脱却なるか 温泉街復興で動き 加賀屋ブランドと両輪で

オオシマザクラの苗木が植樹される湯っ足りパーク=七尾市和倉温泉

 人通りのない七尾市和倉温泉の一角に7日昼、1台の大型バスが到着した。ぞろぞろと降りてきたのは、静岡県湖西市の建設会社の40人。被災地を支援しようと企画した社内旅行で、温泉街の飲食店で昼食をとるため立ち寄った。

 和倉でも営業を再開する飲食店は徐々に増え、一行は洋食店や定食屋などを利用した。田中孝司さん(54)は「少しでもお金をおとしたい」と傷跡が残る湯のまちを見て回り、土産専門店に足を運んだ。

  ●土産店の売り上げ増

 和倉温泉では旅館の大型化が進められてきた。飲食や土産、レジャーなどを館内に集め、外出しなくてもあらゆるおもてなしを楽しめる。いわば「宿泊客の囲い込み」だ。

 そんな大型旅館も休業を余儀なくされた。温泉や料理を提供できず、館内で土産も買えない。一方、温泉街にある土産専門店の一部は震災前より売り上げが伸び、関係者は「観光客がほとんどいないのに…それほど旅館内で土産を買う人がこれまでは多かったんだろう」とつぶやいた。

 「和倉の旅館は巨大化しすぎた」(旅館経営者)との指摘は以前からあった。和倉再建を目指す今、「宿泊客囲い込み」からの脱却を図る動きも見られる。

 旅館や商店の若手経営者が2月に策定した復興ビジョンで掲げるのは、施設規模の適正化や回遊性向上、旅館外で飲食する「泊食分離」の推進である。青写真に終わらせないよう、近く和倉の各団体、市、七尾商工会議所などが具現化に向けた組織を設ける計画だ。

 一方、「街」のように巨大な館内施設と「日本一のおもてなし」で和倉温泉の知名度を高めた加賀屋抜きで温泉街の繁栄がなかったのも事実。もし復旧で個性に乏しい「金太郎あめ」のような温泉地になれば魅力は薄れる。「加賀屋ブランドなくして和倉の復活なし」との声も根強い。

  ●千本桜で回遊性向上

 8日夕方、和倉温泉お祭り会館の駐車場では、威勢のいい掛け声と鳴子の音が響いた。被災して休業が続く商店を応援する催しで、地元をはじめ県内外のよさこい19団体が華やかな演舞で活気を呼んだ。

 商店連盟は今後も月に1回、「元気フェスタ」と銘打った太鼓や歌謡祭などを予定しており、8日の催しを企画した小崎武雄さん(40)は「旅館や商店が全て復活するまでにぎわいの場を守りたい」と語る。

 今月下旬には温泉街を千本の桜で彩り、能登再興のシンボルとする「わくら桜千本プロジェクト」が動き出す。温泉街の回遊性向上にもつながる。

 観光協会、旅館協同組合が日本さくらの会(東京)の協力を得て実施。27日に実行委が設立され、湯(ゆ)っ足(た)りパークや曹洞宗(そうとうしゅう)青林寺裏に広がる「和みの丘公園」などに、塩害に強くて香り高い白色の花を咲かせる「オオシマザクラ」の苗木を植樹していく。

 未曽有の災害に襲われた和倉温泉。地面にひびが入り、観光施設やほとんどの旅館が通常営業を見通せない。大阪直通の特急もなくなり、非常時が続く。

 そうした中、ビジョン策定に携わった多田健太郎さん(47)=多田屋社長=は「千年に1度のピンチをチャンスにできる」と言い切る。同じ方角を向いて咲き誇る千本の桜が大勢の人を迎える。そんな日が必ず来ると信じている。(七尾支社長・安田佳史)

© 株式会社北國新聞社