川崎F苦戦は脇坂、家長らの「暗記プレー」とベースの「さび」、風間八宏と「クラブの決断」さすがの鹿島戦【J1「まさかの前半戦」と「マジかの後半戦」大激論】(2)

名古屋との一戦、先制点を決めた川崎Fの家長昭博(前列左)が大南拓磨と喜ぶ。「さすが川崎」という良いプレーもあるが、現在14位と苦戦中だ。撮影/原壮史(Sony α1使用)

2024年のJ1リーグが、折り返し地点にたどり着こうとしている。20チームで臨んだ前半戦は、良い意味でも悪い意味でもサプライズがあった。また、後半戦の展望につながる新たな材料も見つかった。前半戦をいかに消化し、後半戦に昇華させていくのか、ベテランのサッカージャーナリスト、大住良之と後藤健生が徹底的に語り合った。

■再開初戦4日後「期待外れクラブ」対決

――横浜F・マリノスは消化していない2試合をものにしていたと仮定すると、現在5位から7位のチームが持つ勝点26に並びます。

後藤「そのあたりはダンゴ状態だから、勝点6もあれば、順位はバンと跳ね上がっちゃう」

大住「得失点差に開きはあるけど、勝点だけなら5位のサンフレッチェ広島に並ぶんだもんね」

後藤「FC町田ゼルビアとのJリーグ再開初戦の4日後には、その広島との直接対決があるよ。今シーズン前半戦の期待外れクラブ対決、かな」

大住「一番期待外れだったチームは、川崎フロンターレじゃないの?」

後藤「川崎は期待外れというか、予想通りというか。良くなることを期待していたけれど、最悪の場合は、こんな感じになっちゃうかなと思っていた」

――有力選手の海外移籍など、ここ数年で選手が入れ替わっていますし。

大住「それもそうなんだけど、J1全体に川崎のサッカーに対する免疫ができた、という感じがする。マルシーニョが走るぞとか、脇坂泰斗のパスやスペースに入っていく動き、家長昭博があの位置でじっくりボールを持って相手をいなすとか、対戦相手が全員暗記しているようなプレーばかりなんだよね。相手チームにとっては、もちろん怖いけど、予想している怖さだから、それほど破壊的ではない。鬼木達監督は、自分たちのサッカーを推し進めていくことが上昇する道だと強調するんだけど、少し変化をつけることが必要じゃないかと思う。たとえば、家長をトップ下にするとか、マルシーニョを右ウィングにしてみるとか、何かを変えて相手の予想がつかないことをやっていかないと」

■良いシーンだけ見ると「さすが川崎」

後藤「相手がいくら予想しても、強い頃の川崎はやり切るだけの力を持っていたよね。それを取り戻せばいいというのが、鬼木監督の意見。それがけっこう難しいところだね。良かった頃と比べたら、明らかに技術が落ちているんだから」

大住「パスの精度やボールコントロールという、川崎のサッカーのベースが衰えているような気がするよね」

後藤「すごいメンバーがそろっていたあの頃と同じことをしろ、というのが、そもそも間違い。非常に高いレベルのサッカーをしていたわけだから」

大住「でも、去年できたプレーができていないんだよね、ビックリすることに。柏レイソル戦を見たら、なんでこんなに、と思うくらいパスミスが多かった。たとえば脇坂や橘田健人でさえ、パスがズレるんだよ。選手が抜けたというだけじゃなく、持っているものが少しさびてきたのかな、という気がする」

後藤「その柏戦で決めたゴールは、これはフロンターレじゃないとできないなというプレーの連続から決まったものだった。中断前最後の名古屋グランパス戦も、今年の中では良いほうだった。良いシーンだけ見ると、さすが川崎というプレーなんだけど、それが1試合の中でほんの数回出るだけで、90分間を通して出し続けられない。名古屋戦もそうだった」

大住「その結果が17試合を終えて、勝点20で14位という現状なんだよね」

■「求められる」クラブとしての切り替え

後藤「今年は、今から優勝を狙うというのは無理だと思う。それよりも、来年度以降にチーム全体をどうしていくのかを考えるべき。来年以降もパスサッカーを貫いて強さを取り戻そうとするのか、ひとつのサイクルが終わったと考えて、違うサッカーに切り替えるのか。あれほど良いサッカーができていたんだから、それを取り戻して、もう一度、あれくらい強いチームをつくってほしいような気もするし。ただ、それを取り戻すには時間がかかりそうだから、少し内容を変えていく必要があるだろうし。クラブとして、これからどうしていくのかを、よく考えるべき時期にあるよね」

大住「しかも悪いことに、罰ゲームがあるんだよね。今年のACLはめちゃくちゃきついよ。このまま夏も停滞して、秋にACLとリーグ戦の掛け持ちになったりすると、本当にボロボロになる可能性がある」

後藤「それも含めて、クラブとしてどうするのか、だよ。監督の問題じゃなくて」

大住「鬼木監督の下での8シーズンで、J1を4回も制した。完全にひとつの時代をつくったけれど、それが終わるのはサッカーチームにとってしょうがないこと。僕がもしもクラブの経営者だったら、今年に入る前に切り替えたと思う。完全に落ち込む前に切り替えなきゃいけないんだけど、鬼木監督の実績とチームを掌握している様子からして、踏ん切るのは難しかったのかもしれない。監督交代はギャンブルでもあって、狙いと逆の結果が出ることもあるからね」

後藤「替えるにしたって、どういう監督を連れてくるかだよね。昔の川崎みたいなことをまたやろうとして、そういうことができる人を探すのか。それともこの際、過去の栄光は忘れて、まったく違うサッカーをするチームをつくるのか。極端な話、もう一度、風間八宏さんに基礎をつくってもらうという手だってあるよ」

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