【エプソムC回顧】レーベンスティールが底力勝負を制す 祖父トウカイテイオーが敗れた秋の大一番が好機

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毎日王冠との違い

東京芝1800mは秋開幕週の毎日王冠と同じ舞台。舞台が同じなら、親和性がありそうなものだが、過去5年エプソムC勝ち馬はその年の毎日王冠で不、2、不、5、7着で相性がいいとはいえない。単純に格の問題が大きい。やはりGⅡ格の毎日王冠はレースの流れにスキがなく、ハイレベルな戦いになる一方で、エプソムCはシーズン端境期のGⅢ。一長一短のメンバー構成になりムラがある。流れや馬場を味方に好走する馬もおり、毎日王冠のような真正面から実力をぶつけるレースでは足らなくなってしまう。

そうしたメンバーレベルの差は当然、今年もあるかもしれないが、レーベンスティールはもしかしたらと期待を抱かせるパフォーマンスだった。別定で59キロを背負わされる状況は楽ではなく、決してC.ルメール騎手に手替わりしたからといった単純な理由ではなさそうだ。

レースを主導したのはセルバーグ。大外枠でもあり、最近はゲートに若干不安を抱える同馬にとって同型との兼ね合いは意味が大きい。内のシルトホルンにハナを譲る形に一度はなったが、やはり自分のスピードに合わないとハナを奪い返し、結果的に流れをつくった。セルバーグが引っ張ったことで、1000m通過は58.3。毎日王冠でよく見かける11秒台を連発する形になった。

秋はワンランク上の舞台へ、レーベンスティール

その後もペースは緩まず、結果的には200m通過後からゴールまで1600mすべて11秒台を叩き出す底力勝負になり、スキのないラップ構成が生まれた。これも毎日王冠と非常に似た形である。緩まずに最後まで一定の速いラップで乗り切るからこそ、毎日王冠はGⅡ格を誇示できる。であれば、今年のレースラップを中団からゴールまできっちり走り切ったレーベンスティールは価値がある。休み明け大敗は不安な部分もあったが、もしかすると軽いレースは向かないかもしれない。今回の一変にはそんな適性を感じる。もっと大きな舞台でこそ輝ける。

4歳牡馬は芝1600m以上の重賞でべラジオオペラの大阪杯以降も勝ち星に恵まれていないが、レーベンスティールの勝利はそんな状況を打破するだけのインパクトがあった。母の父はトウカイテイオーであり、オールドファンの心をくすぐる一頭。テイオーがハイペースに巻き込まれ大敗した天皇賞(秋)で孫がリベンジする好機ではないか。なんとも壮大な物語に胸が躍る。どうか無事に秋を迎えてほしい。

新味を見せたニシノスーベニア

当然、ハイレベルなラップ構成であれば敗れた馬も見直しが必要だ。2着ニシノスーベニアは東京より中山向きで、高速上がりに不安があったことから、この2着は大きい。スローで崩れる可能性もあるが、持続力を問う流れで好位から抜け出せるのであれば選択肢は広がっていく。東京芝1600mはよりそういった形になりやすく、挑戦する価値はありそうだ。

3着シルトホルンは途中でセルバーグに譲る形となったが、元来ハナを切りたい馬でもなく、そこは苦にしなかった。なにより、このラップを早め先頭から押しきりにかかった。1、2着馬には屈したものの、それ以外は完封できておりまだまだ伸びしろがある。目標になりやすい面はあるが、今回のように強気に出ていって、自ら活路を見出していってほしい。スクリーンヒーロー産駒らしく、東京の持続力勝負は合う。成長曲線としては父との共通点もありそうで、秋に向けて期待したい一頭だ。

2番人気サイルーンは4着。中団からきっちり脚を使えたが、今回はオープン馬たちの脚力が一枚上だった印象もある。とはいえ、クラス慣れさえすれば、通用するメドは立った。東京のスローでどれほど末脚を使えるかはポイントになりそうだが、こちらも中山適性があるので選択肢の幅がある。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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