【函館スプリントS回顧】函館1200mはロードカナロア産駒に逆らえない サトノレーヴが秋へ飛躍の重賞初制覇

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函館芝1200mはロードカナロア

2番人気サトノレーヴが春雷Sから連勝で一気に重賞タイトルを手にした。2019年から23年までの5年間、函館芝1200mでロードカナロア産駒は【20-24-12-111】勝率12.0%、複勝率33.5%で着度数別でトップの数字を誇る。同期間の札幌芝1200m【10-12-8-78】勝率9.3%、複勝率27.8%なので、同じ洋芝でも断然、函館芝1200m向きだ。函館スプリントSでは20年ダイアトニック、23年キミワクイーンの次ぐ3勝目。洋芝でも開幕週のきれいな馬場が合う。

上記期間内では4枠から内で11勝をあげており、内枠に入ったロードカナロア産駒には逆らえない。今年もまさにその通りの決着となった。豊かなスピードと器用さを身上する産駒が多く、コーナー半径が小さくハイペースになりやすい函館にはぴったりだ。今後もこのデータは頭に入れていこう。一方で8枠も6勝をあげており、内枠専用ではない。距離の上限が1200mという生粋のスプリンターより1400mでも好勝負になる産駒が多いため、外を回らされても決してへこたれない。

また、スピードを発揮しながら、最後までリズムよく運べることも重要で、その意味ではサトノレーヴもアサカラキングの真後ろにつけ、直線では同馬が外に寄ったスキに間を抜けてきており、一切ストレスがない競馬でもあった。リズムよく器用に立ち回れるタイプは小回りでは優位であり、今日はサトノレーヴの強みを最大限に発揮できたといっていい。

母チリエージェといえば、重賞3勝馬ハクサンムーンがいる。スピード身上のスプリンターは馬場入りで旋回するクセがあるなど、難しい面もあったが、ひとたび逃げられれば、簡単に止まらない持続力もあった。サトノレーヴは父がロードカナロアになった分、従順さと器用さを兼備している。母系に流れる狂気じみたスピードがロードカナロアによって中和され、扱いやすいスプリンターになった。インパクトでは兄に劣るかもしれないが、ぜひ、成績で上回ってほしい。

兄はGⅠ2着が2回で手が届かなかった。立ちはだかった一頭はロードカナロアだ。現役時代、スプリントGⅠでしのぎを削った2頭の血がサトノレーヴには流れている。これもまたドラマだ。ライバル同士が手をとりあい、今度はサトノレーヴをGⅠ馬に押し上げてほしい。それだけの力を感じさせる。堀宣行厩舎らしく、休養をしっかりとりながら、通算【6-1-0-1】。真のスプリンターは流れに左右されることなく、崩れない。サトノレーヴにはその資格があり、一気にGⅠへ駆けのぼってほしい。秋が楽しみになった。

舞台を選ばないウイングレイテスト

レースはアサカラキングがスタートダッシュで見劣り、ハナに行けなかった。カイザーメランジェにスタートを決められ、後手に回ったのは痛かった。逃げ馬と好位に控える競馬は似た位置取りであっても違う。発馬直後に行かない選択をしたのが裏目に出たか。いつもほどの圧倒的なパフォーマンスを見せられなかった。もう少しわがままに乗ってもよさそうだが、今回は状況を判断して、あえてカイザーメランジェを行かせたか。

9着と着順を落としており、試みは結果を出せなかったが、長い目で見れば、控える経験も幅を広げるためには必要でもある。いずれは試さなければならない試練であったことは事実であり、今後はこの結果を受けて、陣営がどんな作戦を選ぶのか楽しみだ。個人的には控えても味がありそうなタイプではなく、見せ場すらなかった今回を踏まえるなら、行かせた方がよさそうだ。

カイザーメランジェが演出した流れは前後半600m33.4-35.0。ハイペースではあったが、サトノレーヴ、2着ウイングレイテストら好位勢が踏ん張り、後半は11.7-11.6-11.7と失速することはなく、ゴールまで同じペースで粘られては後続はどうしようもない。それだけに上位馬のスタミナと持続力には注意が必要だ。

2着ウイングレイテストは初のスプリント戦出走で素質の高さをアピールした。スワンSを勝った1400m巧者だが、これで距離選択の幅が広がった。1400mよりハナに行ってくれるスピード型がいる1200mの方が競馬を組み立てやすく、まだまだ力を発揮できる。母の父サクラユタカオーの成長力とスピードの持続力が7歳でも活躍する源のひとつ。舞台を選ばない器用さもあり、まだまだやれる。

3着ビッグシーザーは先行勢の後ろで流れに乗り、絶好の形を作れはしたが、前が止まらなかった。前が失速ラップを描くようなレースを差し込むのが得意パターンであり、今回は強力な先行型に屈した。ベストは平坦ではなく坂がある1200m戦であり、ハイペースが定番の中山は合う。ただ、好位勢の後ろから競馬をすれば外を回らざるを得ず、その辺がなんとも歯がゆい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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